金曜日(2016年7月22日)から、アメリカ本土は記録的な熱波に見舞われています。金曜日に気温が32.2℃(華氏90度)を超えなかった州は、米北西部のワシントン州だけという暑さでした(ワシントン州シアトルは21℃を少し超えたくらいだったとか)。
Credit: NOAA
上の地図は、7月23日(土)の米本土の予想体感最高気温を表示しています(華氏100度は37.8℃)。アリゾナ州フェニックス周辺、テキサス州南部から米中西部、東部にかけて広がっているピンクの地域では、体感気温が40.6℃から43.3℃、その濃いピンクに囲まれている薄いピンクの地域の体感気温は43.3℃から46.1℃、一部の地域では46.1℃を超える熱波が予想されたため、気象機関だけでなくオバマ大統領までがTwitterで注意を呼びかける事態となりました。
今週末のこの記録的な規模の熱波の原因となっているのは、「ヒートドーム」と呼ばれる大規模な気象現象です。
Credit: CNN
この「ヒートドーム」は、アメリカの国立測候所の用語にはない比較的新しい言葉で、これまでにも比較的大規模な熱波が起こると使われることもありましたが、今夏に入ってから頻繁に見聞きするようになりました。
米海洋大気局(NOAA)によると、「ヒートドーム」は、高気圧上層の大気がふたの役割をして、通常は外に逃げるはずの空気を閉じ込めて広範囲にわたるドーム状の大気団を作り、乾燥した暖かい空気がその中を循環することでさらに暑さを加速させるそうです。内気循環で暖房を動かしている自動車内をイメージしてもらえばいいのではないでしょうか。
上の図には書かれていませんが、ヒートドームの規模(直径)はおよそ1,600kmから8,000kmにも及びます。日本の端(北海道)から端(沖縄)までの距離が約3,000kmであることを考えると、その規模の大きさがわかります。
金曜日には、このヒートドーム内に米南部のテキサス州から北東部のニューイングランドまで20を超える州が入り、その影響を受けた人口は1億人を超えました
ヒートドームの影響を受けているのはアメリカ本土だけではありません。イラン、イラク、クウェートも、今週はヒートドームによる記録的な熱波に見舞われました。
Credit: Weather Underground
木曜日(7月21日)には、イランのアフヴァーズで50℃、クウェートのクウェートシティとイラクのバグダッドでは51.1℃、イラクのバスラでは53.3℃、クウェートのミトリーバでは54℃という驚異的な気温を記録しました。このヒートドーム下の熱波の勢いはおさまることなく、翌金曜日(7月22日)には、前日53.3℃まで気温が上昇したイラクのバスラで、ミトリーバに迫る53.9℃を記録する酷暑となりました。
最高気温の世界記録は、1913年7月10日にアメリカのネバダ州デスバレーで観測された56.7℃ですが、クウェートのミトリーバで観測された54℃はそれに次ぐ観測史上2番目の高気温、イラクのバスラ(53.9℃)は史上3番目に高い気温を記録したことになり、東洋ではミトリーバとバスラが史上最高と2番目の記録になりました。
こんな記録、ちっともうれしくないですよね。
温暖化が進めば、熱波が発生する頻度は高くなります。熱波による極端な気温の上昇は、健康を損ねる要因のひとつで、2003年にはヨーロッパで7万人以上の死者を出しました。米政府は、夏期の熱波による早期死亡が2030年までに1990年比で年間に11,000人増加、2100年までに27,000人増加すると報告書で述べています。
ペルシャ湾岸諸国では、気候変動の影響で今世紀後半には暑さが人間の許容範囲を超える都市が出てくるという研究結果もあります。
気候変動の進行に伴って、近年は冬に「極渦(Polar vortex)」や「北極温暖化増幅(Arctic amplification)」などのこれまでほとんど知られていなかった言葉を頻繁に見聞きするようになってきました。これからは、そこに夏の極端な気象現象として「ヒートドーム」という言葉が加わるかもしれません。
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