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世界で起こっている紛争や戦争と気候変動との関連性について、ここ数年活発に研究が行われています。このブログでも取り上げましたが、シリアで2011年から続いている内戦は、気候変動が原因の一部となっている過去900年間で最悪の干ばつがきっかけになったという研究結果も発表されています。
しかし、これまでは単純に極端な気象現象と紛争のデータから関連性があるかどうかを調べた研究ばかりでしたが、今回、民族が分裂している国ほど、極端な気象現象などの気候関連災害によって紛争発生のリスクが高まるという研究結果(Schleussner et al. 2016)が、科学誌「米国科学アカデミー紀要」に掲載されました。
ポツダム気候影響研究所(Potsdam Institute for Climate Impact Research)を中心とする研究チームは、1980年から2010年までに世界各地で起こった紛争のデータ、干ばつや洪水などの気候に関連する自然災害、それぞれの自然災害によって地域が受けた経済損失、そして被災地域の民族データを加えて統計モデルによって関連性を分析した結果、単一民族や民族の分裂が少ない国と比較して、より多くの民族が混在する国ほど気候関連災害が紛争のきっかけになっていたことがわかりました。
すべての国と地域を合わせると、自然災害発生後1ヶ月以内に武力紛争が発生したのは9%でしたが、民族の分裂が著しい上位50の国だけに絞ると、1980年から2010年までの31年間で、23%の武力紛争が自然災害を要因の一部として発生したと研究チームは指摘しています。
この研究が示しているのは、あくまでも気候関連の自然災害が発生した直後(1ヶ月以内)に始まった武力紛争のきっかけのひとつがその災害だったかどうかです。元々その国や地域が内包している民族間の緊張度や、貧困レベル、宗教や文化の違いなどの下地となっている様々な要因に加えて、自然災害による水不足や食糧不足などが紛争発生の引き金となりうることを研究結果は示しており、気候関連の自然災害が原因であるとか、その自然災害を引き起こす原因の一部である気候変動が武力衝突や紛争の直接的な原因であると指摘しているわけではありません。
でも、気候変動対策を実施せずにこれまで通りの生活を続けると、20年に一度の熱波が今世紀後半には毎年起こるようになるという研究結果や、一部の極端な気象現象が気候変動によって激化しているという研究結果もあり、気候変動の進行に伴って気候関連の自然災害の増加と激化は避けられないと思われます。
今回の研究は、中央アフリカや中央アジアなど、多民族が入り乱れている国の自然災害に対する脆弱性を浮き彫りにし、今後気候変動によって増加・激化すると考えられる極端な気象現象がきっかけとなってそれらの国で紛争が起こるリスクが高くなることを示しており、国際社会と国、地域が協力してそのリスクを軽減させるために、このような研究を活かさなければなりません。
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【参照文献】
Schleussner C-F, Donges J, Donner R, Schellnhuber H (2016) Armed-conflict risks enhanced by climate-related disasters in ethnically fractionalized countries. Proc Natl Acad Sci:201601611.
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