ロシア北部の遊牧民が多く暮らすヤマロ=ネネツ自治管区のサレハルドで、融解した永久凍土から露出したとみられる炭疽菌が拡散し、12歳の少年1人が死亡、90人以上が入院しています。また、トナカイ2300頭も炭疽が原因で死ぬなど、異常事態に陥っています。
シベリア西部のこの地域にとって、炭疽病が流行したのは初めてではありません。1941年を最後に炭疽病の発症はみられませんでしたが、その当時に炭疽に感染して亡くなった人やトナカイなどの死体は永久凍土の浅い場所に埋葬されていたため(凍っているので深い穴が掘れない)、数百年間は生き延びるといわれている炭疽菌が永久凍土の融解によって再び地上に露出し、接触したトナカイや、永久凍土がとけて混入した飲み水を媒介として炭疽菌に感染したのではないかと考えられています。
7月19日から8月2日までの平均気温の偏差(基準は1981年から2010年)。青い丸で囲まれた部分がヤマロ=ネネツ自治管区。平年よりも約3℃から7℃くらい平均気温が高い。
Credit: Mashable
北極圏内に位置するヤマロ=ネネツ自治管区では、同地区としては極めて珍しい気温35℃を超える熱波に見舞われているだけでなく、夏の平均気温と今年に入ってから8月初めまでの平均気温が平年を大きく上回るなど、永久凍土の融解が起こりやすい条件が整っていました。
炭疽病流行の原因は異常な暑さであると自治管区の長はコメントをしていますが、気候変動による気温の上昇傾向が続くと、北半球で露出している地表の約24%を占める永久凍土の融解によって温室効果ガスが大量に排出されて気温上昇が加速する恐れがあるのに加え、地形の変化によって住民の生活が脅かされます。これまでに、永久凍土に閉じ込められているウィルスやバクテリアへの感染を懸念する科学者が少なからずいましたが、今回はそれが現実のものとなりました。
北極圏の気温は、他の地域と比較して2倍の速さで上昇を続けています。その急速な気温上昇に伴う熱波の増加と激化が永久凍土の融解を加速、拡大させることにより、今後も様々な問題が顕著になってくることでしょう。
私たちは、温暖化が進んだ世界のほんの一部を先取りして見ているに過ぎないのです。
【あわせて読んでほしい記事】
【参照記事】
Ninety stricken by Yamal anthrax outbreak — authorities|Tass News Agency
この記事へのコメント