最強レベルまで発達したエルニーニョは夏を前に終息を迎え、その正反対の現象であるラニーニャ現象が秋から冬にかけて始まると予想されています。
今回のエルニーニョは昨年の秋以降、世界の平均気温を押し上げて2015年が観測史上最も暑い年になったサポート役を果たし、今年に入ってからも主要気象機関が発表する世界の平均気温がほぼすべての月で過去最高を記録する原因のひとつとなりました。
これまでにもエルニーニョが世界各地(特に開発途上国)にもたらしている被害状況について記事にしてきました(『途上国で約6千万人にエルニーニョの影響が及ぶ可能性』と『アジア太平洋地域と東アフリカでエルニーニョによる被害が深刻化』)が、国連や人権保護団体等による度重なる呼びかけもむなしく、先進国による援助は現在も不足しています。
国連によると、アフリカ南部の4千万人を筆頭に、アジア太平洋地区、カリブ・ラテンアメリカなどを含む世界全体で約6千万人がエルニーニョによる干ばつが原因の食料と清潔な飲料水の不足に見舞われ、先進諸国からの支援も必要額の15%に満たない額にしか達していない状況です。
15ヶ国からなる南部アフリカ開発共同体(Southern African Development Community、略:SADC)は、4千万人がエルニーニョがもたらす干ばつの影響を受けており、24億ドル(約2460億円)の支援を国際社会に要請しています。
SADCは28億ドル(2870億円)を要請していましたが、国際社会からの支援が得られず、今回改めて不足している24億ドル(約2460億円)の支援を呼びかけました。アメリカは3千万ドル(約31億円)、イギリスは2千5百万ドル(約25.6億円)の支援を発表するなどしていますが、4千万人分の援助にはまったく足りていません。
国連人道問題調整事務所(UNOCHA)によると、世界全体で約60ヶ国が合計約60億ドル(6140億円)の支援を国際社会に呼びかけていますが、既に集まった額と支援が約束された額の合計は約20億ドル(2050億円)で、まだ40億ドル(4100億円)不足しているそうです。
アフリカ南部の9ヶ国(南アフリカ、レソト、スワジランド、アンゴラ、モザンビーク、マラウイ、ジンバブエ、ザンビア、コンゴ)を対象に国際NGOワールド・ビジョンが行った調査によると、聞き取り調査対象者の80%近くが、エルニーニョの被害が深刻化してから学校をやめる子どもが増加したと答え、70%近くが児童労働の増加を指摘しています。児童労働として、家庭内労働に商業的性的搾取が続いています。児童労働や商業的性的搾取、学校中退者が最も多いのは、14歳未満の子どもたちであると報告されています。
さらに、ユニセフの報告書によると、アフリカ東部と南部ではエルニーニョの影響によって飢餓や水不足に直面している子どもが2650万人に達しており、中には栄養失調で急を要する子どもが100万人含まれているそうです。
ユニセフの同報告書に関して日本ユニセフ協会がプレスリリースを発表しており、そこにエルニーニョの影響を受けた世界各国の主な被害状況が書かれているので、引用しておきます。
<アフリカ地域>アンゴラ:140万人(内75.6万人が子ども)が食糧危機。9万6,000人の子どもが重度の急性栄養不良スワジランド:30万人(人口の1/4近く)に干ばつの影響レソト:53万人(内31万人が子ども)が食糧危機。子どもの12.3%が慢性的な栄養不良マラウイ:280万人(内150万人が子ども)が食糧危機。5歳未満児の半数に発育阻害の兆候エリトリア: 特に低地で5歳未満児の栄養不良が深刻エチオピア:過去50年で最悪の干ばつ被害。1,020万人(内600万人が子ども)に食糧支援が必要になる見込みマダガスカル:干ばつが深刻な南部で、その地域人口の80%に相当する110万人が食糧危機ジンバブエ:280万人(内150万人が子ども)が食糧危機ソマリア:38万5,000人が食糧危機。緊急支援がなければさらに130万人が食糧危機に陥る恐れ。急性栄養不良の5歳未満児が10万人モザンビーク:150万人が食糧危機。今後19万人の子どもが栄養不良に陥る恐れ<アジア・太平洋地域>朝鮮民主主義人民共和国:干ばつ被害の地域では、5歳未満児の下痢性疾患が72%増加ベトナム:200万人に干ばつの影響。大規模な海水の侵入によって、農耕地や水供給に深刻な被害インドネシア:支援を必要としている人が120万人。乾燥により山火事が増加し、子どもの呼吸器性疾患につながっている。米の価格高騰も人々にのしかかるカンボジア:過去50年で最悪の干ばつで、250万人に影響フィジー:2016年2月のサイクロンが人口の40%に影響。その後も洪水で農業に深刻な被害パプアニューギニア:干ばつと冷害で150万人が食糧危機。緊急の食糧支援が必要な人々は18万人以上<ラテンアメリカ・カリブ海地域>ホンジュラス:130万人に干ばつの影響。そのうち、25万2,000人以上に緊急の人道支援が必要エルサルバドル:70万人に干ばつの影響。うち、17万人が食糧危機グアテマラ:91万5,000人が食糧危機。ハイチ:緊急の食糧支援が必要な人々は150万人。13万人の5歳未満児が急性栄養不良
さて、この約60ヶ国が国際社会に支援を呼びかけているのに焼け石に水のような支援額しか集まっていない状況ついて、先進諸国(と一部の先進開発途上国)による責任放棄であるという見方があります。
国連特使であるマリー・ロビンソン氏は、現在の状況について英ガーディアン紙にこう話しています。
「これは、人間活動に起因する伝統的な天気のパターンの悪化です。従来のエルニーニョ現象ではなく、気候変動の影響を受けたエルニーニョ現象が私たちにとって新しいノーマルになっています。国際社会、特に二酸化炭素の大量排出国はその責任をとらなければなりません。」
エルニーニョ現象が終わったあとも、その深刻な影響は残ります。飢餓や栄養失調、感染症やその他の病気によって失われた命は戻ってきません。また、児童労働や性的搾取による子どもたちの心身への影響が消えることはないでしょう。
これは、アフリカやアジア太平洋地区、カリブ諸国やラテンアメリカなど、エルニーニョによる干ばつなどの深刻な被害を受けている国々に対して先進諸国が十分な「支援」や「援助」を行うかどうかではなく、それらの国に被害をもたらしている根本的な原因を作り出した国々が、ロス&ダメージの概念に従って、その責任に見合った「補償」を行うかどうかの、気候正義の問題なのです。
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