映画ファンにとって、2016年のアカデミー賞で念願だった主演男優賞を初めて受賞したレオナルド・ディカプリオが、気候変動問題について語ったスピーチは記憶に新しいのではないでしょうか。
過去記事に貼った動画と対象部分の日本語訳をここでもう一度振り返ってみましょう。
In his #Oscars acceptance speech - @LeoDiCaprio calls for urgent action on climate change: https://t.co/W2Tsd0hxdQ
— 350 dot org (@350) February 29, 2016
内容は、以下の通りです。
『レヴェナント』の製作は、人間と自然界の関係を物語っていました。2015年に私たちが感じたのは、歴史上最も暑い世界でした。私たちは、雪を見つけるためにこの星の南の端まで移動する必要がありました。気候変動は現実です。今まさに起きているのです。気候変動は、私たちすべての種が直面している最も差し迫った脅威であり、私たちは先延ばしにするのをやめ、ひとつになって行動しなければなりません。私たちは、巨大な汚染者たちや大企業ではなく、全人類、世界中の先住民たち、最も影響を受けている何十億の恵まれない人たち、子どもたちとその子どもたち、その声を強欲な政治によってかき消されてきた人たちを代弁している指導者たちを支えていく必要があります。今夜、この素晴らしい賞を授けられたことをすべてのみなさんに感謝します。この星の存在を当たり前だと思わないようにしましょう。私も今夜のことを当たり前のことだとは思っていません。
このスピーチは、主要メディアで大きく取り上げられることはありませんでしたが、ソーシャルネットワークで大きな反響を呼んだのを覚えています。
今回それを裏付けるように、オスカーでの彼のスピーチ後に、TwitterとGoogleで気候変動に関するツイートと検索数が大きく跳ね上がり、特にTwitterでは2011年以降で最も気候変動に関するツイートが投稿された(Leas et al. 2016)という研究結果が、オープンアクセスの科学誌「PlOS One」に掲載されました。
このサンディエゴ大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校などの共同研究によると、特定のセレブが反響の大きな機会に社会問題などについて声をあげれば、たとえ主要メディアに大きく取り上げられなくても、多くの人が関心を持つことを証明したと指摘しています。
ディカプリオはこれまでにも気候変動に関するスピーチを行ってきましたが、それほど大きく取り上げられることはありませんでした。
しかし、米アカデミー賞の授賞式は全世界に中継され、3,450万人の視聴者が彼のスピーチに耳を傾けました。これまで彼が公の場で語りかけたときとは、その声を受け止めた人の数が圧倒的に違ったのです。それが「ディカプリオ効果」を生み出し、過去に例がないソーシャルネットワークでの反響を呼ぶ結果となりました。
アイヤー氏と研究の共同執筆者たちは、ブルームバーグターミナルとTwitterの検索、そしてGoogleトレンドのデータを集計し、ディカプリオのオスカーにおけるスピーチの反響を調査しました。また、一般の人たちの関心度が昨年のCOP21とアースデイのときとどのように違うかを比較も行いました。
その結果、主要メディアがほとんど無反応だったのに対し、気候変動に関するソーシャルメディアでの言及と検索数が著しく跳ね上がったことがわかりました。
(上)アースデイ、COP21、アカデミー賞でのディカプリオのスピーチ後に主要メディアによる気候変動関連ニュースカバレージの比較。左折れ線グラフは関連ニュースの割合、右棒グラフは増減割合。(下)アースデイ、COP21、アカデミー賞でのディカプリオのスピーチ後における気候変動関連ツイートの数と増減割合。(Leas et al. 2016)
上の両グラフは、昨年のアースデイとCOP21の開催後、そして今年のアカデミー授賞式におけるディカプリオのスピーチ後の、主要メディアによる気候変動関連ニュースの取り上げ方(上)と、同3つのイベント後における気候変動関連のツイート数とツイートの増加割合(下)を比較したものです。
まず、主要メディアによるニュースカバレージを比較すると、COP21開催時には気候変動関連記事が400%増加しましたが、ディカプリオのオスカーでのスピーチ後にはスピーチ前よりも気候変動を扱った記事は減少しています。
それに対してTwitterでは、ディカプリオによるアカデミー授賞式でのスピーチ後に「気候変動」と「地球温暖化」を含むツイート数は25万を超え(2011年以降では1日あたりで最多)、その割合は636%増加しており、COP21の3.2倍、アースデイの5.3倍と、その反響に大きな違いがあることがわかります。
(上の2つの折れ線グラフ)Google検索でディカプリオのスピーチに含まれていた「気候変動(Climate change)」「地球温暖化(Global warming)」「最も暑い年(Hottest year)」「先住民(Indigenous)」という言葉と、スピーチに含まれていなかった言葉の検索のされ方を比較。(下の棒グラフ)ディカプリオのスピーチ当日から5日後までの「気候変動(Climate change)」「地球温暖化(Global warming)」「最も暑い年(Hottest year)」「先住民(Indigenous)」という語句の検索トレンドと前日までのトレンドとの比較。(Leas et al. 2016)
グーグルトレンドを用いた調査でもTwitterと同じ傾向が見られます。ディカプリオがアカデミー授賞式で気候変動について語った当日から5日後までにスピーチに含まれていた言葉「気候変動(Climate change)」「地球温暖化(Global warming)」「最も暑い年(Hottest year)」「先住民(Indigenous)」の検索はそれ以前のトレンドと比較して大きく増加しており、ここでも「ディカプリオ効果」が発揮されていることがわかります。
アイヤー氏は、たとえ主要メディアによるニュースカバレージが少なくても、セレブが社会問題について声をあげることの重要性をこの研究結果が顕著に示していると指摘しています。
これまで数十年にわたって多くの気候科学者が気候変動の脅威について声をあげてきました。しかし、今回の研究結果は、社会問題について人々の関心を集めるためには、気候科学者の声だけでは足りないことを示唆しているとも考えられます(当事者としては大変悔しい研究結果ではありますが)。
ディカプリオが語ったとおり、気候変動は私たち地球上のすべての種が直面している最も差し迫った脅威であり、多くの人々に関心を持ってもらい、一体となって行動を起こす必要があります。
そのために、専門家である気候科学者は従来の枠を超え、多くの人の心を動かすことができる著名人と連携し、ソーシャルネットワークを効果的に利用するなど、よりダイナミックに一般の人たちとコミュニケーションを取らなければなりません。
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【参照文献】
Leas EC, Althouse BM, Dredze M, Obradovich N, Fowler JH, Noar SM, et al. (2016) Big Data Sensors of Organic Advocacy: The Case of Leonardo DiCaprio and Climate Change. PLoS ONE 11(8): e0159885. doi:10.1371/journal.pone.0159885
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