米アラスカ州シシュマレフ|Credit: Shishmaref- Erin (53) edit
気候変動による海面上昇が原因で、南太平洋やインド洋に位置する、海抜が低く水没の恐れがある島しょ国の人々が「気候難民」として将来的に移住を迫られているという話はこのブログで何度も触れてきました。
これまでにツバルやキリバスの国民が気候難民としてニュージーランドへの移住を求め、難民申請を認められたケースもあります。
アメリカ国内には、気候変動による深刻な影響で従来の生活を続けることができなくなり、移住を計画している先住民のコミュニティが少なくありませんが、移住には莫大な資金(彼らは気候変動に寄与していないため正確には「資金」ではなく「補償」)が必要なため、実現までの道のりは大変険しいものになっています。
そして今回、海面上昇による海岸浸食に生活を脅かされながら米アラスカ州北西部のチュクチ海に面する小島で暮らす、先住民イヌピアットが人口の大部分を占めるシシュマレフ村が、2016年8月16日に行われた投票によって移住を決めました。
数十年前と比較して、冬の間にチュクチ海沿岸に押し寄せる海氷が激減し、海氷に覆われる期間が2ヶ月短くなったため、約35年の間に波で浸食された海岸線は約800メートルから900メートルに及び、小さな島は生活域を海に飲み込まれ、これまでにも島内で10回以上の移動を強いられる住民がいました。
また、冬期の海氷の減少によってアザラシの捕獲が困難になり、また、積雪量の減少によって夏期に植物がとれなくなるなど、食料の調達も不安定になってきています。
シシュマレフ村にとって、気候変動による被害から逃れるために移住するかどうかを決める住民投票は今回が初めてではありませんでしたが、2002年に行われた同様の住民投票では移住に反対する人が多く、資金難も予想されたために実現しませんでした。
人口約650人のシシュマレフ村は、今回移住に賛成する人が98人、留まりたい人が78人で移住することを決めましたが、決めたからといってすぐに移住できるわけではありません。
移住にはひとりあたり約30万ドル(約3千万円)が必要と試算されており、住民全員が移住するためには約2億ドル(200億円)の資金を連邦政府や州政府から調達しなければなりませんが、両政府による予算は限られており、ルイジアナ州の先住民コミュニティのように、まず競争に勝たなければなりません。そしてたとえ資金を得たとしても、村民全員が移住を果たすまでに10年くらいかかると考えられています。
昨年パリで開催された気候変動会議(COP21)にも参加した、シシュマレフ村の住民で気候活動家でもあるエサウ・シノックさん(18歳)は、移住に必要な資金を獲得するために村長に立候補したいと述べています。
シシュマレフは、アラスカ州において海面上昇と浸食による差し迫った脅威があるため、陸軍工兵部隊によって移住を勧められている9つのコミュニティのひとつです。
陸軍工兵部隊によると、そのようなコミュニティの数は今後数十年のうちに200から300にまで増えるそうです。
言うまでもありませんが、気候変動の原因になるような生活を行ってこなかったアラスカの先住民コミュニティが、先祖代々受け継いできた土地と文化を捨てて気候難民として移住させられるその責任は、大量の温室効果ガスを排出する生活様式を続けてきた先進国(アラスカは先進国であるアメリカの州ですが、先住民は環境弱者であり被害者です)にあります。
生活様式を変えなければならないのは、私たちの方なのではないでしょうか。
【あわせて読んでほしい記事】
【参照記事】
この記事へのコメント