東アフリカのコンゴ共和国やタンザニアに接するタンガニーカ湖は、世界でも最も古く大きな湖のひとつであり、魚類や貝類を中心に数百の固有種が確認されている、生態系が豊かなことで有名な湖です。
タンガニーカ湖では、周辺国住民が摂取している動物性タンパク質の60%を供給している魚の減少が問題とされてきましたが、その最大の原因は乱獲にあるのではないかと考えられてきました。
しかし、今回アリゾナ大学などの国際研究チームによって、商業的漁業よりも温暖化による水温の上昇が1950年代以降のタンガニーカ湖における魚の個体数の減少に繋がったという研究結果(Cohen et al. 2016)が科学誌「米国科学アカデミー紀要」に掲載されした。
研究チームがタンガニーカ湖底の堆積物サンプルを採取した場所(Cohen et al. 2016)
研究チームは、タンガニーカ湖の3ヶ所で湖底の堆積物を採取し、その成分から過去1500年間における気候の変化と、藻や魚、貝類などの個体数の増減を分析しました。その結果、19世紀末からの気温上昇が湖の生態系に悪影響を及ぼし、それらの個体数が減少したことがわかりました。特に、1940年以降にこれらの種の個体数は38%も減少しています。
タンガニーカ湖岸に浮かぶ漁船(Getty Images)
タンガニーカ湖で大規模な商業的漁業が盛んになったのは1950年代後半であることから、近年魚類の個体数が激減したのは、乱獲ではなく気候変動によるところが大きいと研究チームは指摘しています。
このような現象は、温度が上昇した湖面の水は密度が軽くなり、湖底へと沈み込む能力を失うことで起こります。温かく軽い水が湖面付近に留まると、酸素を豊富に含んだ水が湖底へ供給されなくなり、酸素不足に陥った湖底に生息する貝類や軟体生物は死んで個体数が減少します。
また、湖面と湖底の水が循環しなくなると、栄養分が豊富な湖底の水が湖面に届かなくなり、藻の発生を妨げるために魚の餌が減るため、魚の個体数が減少に繋がってしまうのです。つまり、温暖化によって食物連鎖が狂ったために、タンガニーカ湖における魚の個体数が減少したと言えます。
この研究結果と同じ現象が世界中すべての湖で起こるわけではありません。高緯度地域の湖では水温上昇が生物種や個体数の増加に繋がる場合もあるでしょうし、地形や湖の深さ、風の強さなどの条件によっては湖面と湖底の水の循環がスムーズに行われる湖もあると考えられます。
ただ、気候変動が進めばタンガニーカ湖と同様の現象が起こる可能性があるため、温暖化した世界において水源や食料源となる湖の生物多様性の維持や地域社会の持続可能性を考えるうえで、今回の研究結果はとても重要だと思います。
【参照文献】
Cohen A et al. (2016) Climate warming reduces fish production and benthic habitat in Lake Tanganyika, one of the most biodiverse freshwater ecosystems. Proc Natl Acad Sci:201603237.
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