昨年(2015年)フランスのパリで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」以降、気候変動対策に原子力エネルギーが必要という声が大きくなってきています。原発は発電時に二酸化炭素を排出しないというのがその理由に挙げられています(ウランの採掘や使用済み核燃料の冷却や再処理、その後10万年に及ぶ核廃棄物の管理で排出される温室効果ガスは含まれません)。
ところが、英サセックス大学とウィーン外交アカデミーの研究チームがユーロ圏の国を対象に調査をしたところ、二酸化炭素排出量の削減のために化石燃料と再生可能エネルギーのブリッジの役割を果たすはずの原子力エネルギーを積極的に推進している国の方が二酸化炭素排出量は削減できておらず、気候変動対策の足を引っ張っている(Lawrence et al. 2016)という研究結果を「Climate Policy(気候政策)」誌に発表しました。
仏カットノン原子力発電所
Credit: Stefan Kühn
研究チームは、2010年に定められた「EU 2020(欧州 2020)」で共有されている「2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比で最低でも20%削減し、再生可能エネルギーのシェアをエネルギー消費量の20%まで高める」という目標の達成度や今後の課題などについて、原子力エネルギーに対する姿勢を基準に4つのグループに分け、その影響の分析を試みました。
「グループ1」は原子力発電を取り入れていない国で、デンマーク、アイルランド、ポルトガルなどが含まれます。「グループ2」は脱原発へ向かっている国で、ドイツやスウェーデンなどが含まれています。「グループ3」は、フランスやハンガリー、イギリスなど、現存する原発の稼働延長や新規建設などの計画がある原発推進国です。「グループ4」はこれから原発を新規導入もしくは再開する国で、リトアニアとポーランドの2ヶ国だけがこのグループに属しています。
これらのグループに属する国々における二酸化炭素排出量の削減割合と再生可能エネルギーのシェアを調査したところ、「グループ1」は二酸化炭素排出量を平均で6%削減し、再生可能エネルギーのシェアが26%でした。「グループ2」は11%の二酸化炭素排出量削減と19%の再生可能エネルギーによるシェアを達成しています。そして、原発を推進している「グループ3」は、二酸化炭素の排出量が3%増加し、再生可能エネルギーのシェアは4つのグループ中最低の16%という結果でした。「グループ4」は二酸化炭素排出量が15%増加し、再生可能エネルギーのシェアは17%という結果でした(下のテーブルを参照)。
つまり、原子力エネルギーに積極的なふたつのグループが最も二酸化炭素の排出量を削減できていない(両グループ共に増加している)うえに再生可能エネルギーの導入も他のグループより遅れており、原子力エネルギーが気候変動対策としての役割をまったく果たしていないどころか、足を引っ張っている状態ということになります。
研究チームは、この結果は少なくともユーロ圏における原子力ルネッサンスの短期的な成功の可能性に疑問を投げかけていると指摘しています。
このような結果になった原因を、原発を推進している国では、原子力エネルギーの計画や導入政策を作る際に、経済的、技術的な要因ではなく、イデオロギーや精神的、政治的な要素を優先しており、二酸化炭素排出量の削減やコスト、安全性などの問題を過小評価して原発を好むように民意を導き、国策として原発ありきで政策を推し進めてきたことにあると分析しています。
原発のコストがさらに膨大になってきているのに対し、再生可能エネルギーのコストは年々小さくなってきており、社会としての価値を何に見出すのか、どのような社会を目指すのかが問われているのではないでしょうか。
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【参照文献】
Andrew Lawrence, Benjamin Sovacool & Andrew Stirling (2016) Nuclear energy and path dependence in Europe’s ‘Energy union’: coherence or continued divergence?, Climate Policy, 16:5, 622-641, DOI: 10.1080/14693062.2016.1179616
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