フラッキング(水圧破砕法)による健康問題


  以前、「フラッキング(水圧破砕法)って何?フラッキングの何が問題?」という記事で、「フラッキング(水圧破砕法)」と呼ばれるシェールオイル/ガスの採掘方式がもたらす様々な問題について取り上げましたが、今回はその中でフラッキングが人々の健康に与える影響について、いくつか研究結果を挙げてみます。

1. エール大学の研究チームが、広範囲でフラッキングによるシェールガス開発が行われているマーセラスシェール層に位置するペンシルベニア州ワシントン郡の180家族、合計492人に対して行った調査によると、フラッキングサイトの近隣の方が、離れた場所と比較して呼吸器系と皮膚系の疾病にかかる人が多い(Rabinowitz et al. 2015)という結果が出ました。

  ガス井から0.6マイル(約1km)以内に住む人の39%が鼻炎や鼻血などの上気道の問題を訴えているのに対し、1.2マイル(約2km)離れた地域で同じ症状があると答えた住民は半数の18%でした。また、発疹など皮膚の問題を抱えている1km以内に住む人は13%ですが、1.2km離れた地域では3%しか皮膚系の疾病があると答えませんでした。

  研究チームは、あくまでもそういう傾向があるというだけで、フラッキングがこれらの症状の原因であると特定したわけではないと述べています。まあ、ただの聞き取り調査なのでフラッキングが原因と言うわけにはいかないですよね。

2. ジョンズホプキンス大学のチームが、フラッキングサイトの近隣では、早産と妊娠中の健康状態の悪化が顕著に見られる(Casey et al. 2015)という研究結果を発表しています。

  ペンシルベニア州北部と中部の40郡におけるヘルスシステムに登録されている、延べ10,946人の子どもを出産した9,384人の母親のデータ(2009年1月から2013年1月まで)と、フラッキングサイトとの位置関係や稼働状況を元にインデックスを作成しクロス分析したところ、アクティブなフラッキングサイトの近くに住む女性が37週よりも早く出産する確率が40%高く、妊娠中に高血圧や急激な体重の増加などリスクの高い症状を患う女性が30%多いことがわかりました。11%が早産で、そのうち79%が32週から36週目に出産していたそうです。

  研究を率いたジョンズホプキンス大学のシュワルツ氏は、「人々の健康にどんな影響があるかわからないまま8,000ものガス井を掘ることを許してきました。フラッキング産業が健康に有害な影響を及ぼすことを示す数少ない研究のひとつになるでしょう。」と述べています

  しかし、フラッキングが原因であると特定できたわけではなく、なぜアクティブなガス井の近隣に住む女性にこのようなことが起こるのかについてはわかっていません(シュワルツ氏は、大気汚染と騒音によるストレスではないかと推測しています)。

3. 「JAMA Internal Medicine」に発表された研究結果によると、フラッキングが行われているガス井近隣の住民に、ぜんそくの症状が多く見られ、また症状が悪化する傾向がある(Rasmussen et al. 2016)そうです。

  研究チームがペンシルベニア州の医療システムに登録されている約35,000人のぜんそく患者を症状別に軽度(治療薬を処方されている)・中等度(ぜんそくが原因で救急治療室に運ばれたことがある)・重度(ぜんそくで入院したことがある)のレベルに分け、フラッキングの4つの作業工程との関連性を分析したところ、フラッキングのアクティブ度が高いガス井の近隣に住む人の方が、アクティブ度が低い地域の人よりもぜんそくの症状が悪化する傾向にあることがわかりました。また、この傾向はすべてのフラッキングの工程で見られたそうです。つまり、フラッキングがアクティブに行われているガス井の場所の近隣住民は、ぜんそくのリスクが高くなるということです。

  しかしながら、毎度おなじみの「フラッキングがぜんそくの原因かどうかはわからない」だそうです。

4. フラッキングが行われている規模の大きなガス井の近隣の方が、離れた地域よりも慢性鼻副鼻腔炎、偏頭痛、重度の疲労の症状を訴える人が多いという研究結果(Tustin et al. 2016)を、ジョンズホプキンス大学の研究チームが「Environmental Health Perspective」に発表しています。

  研究チームがペンシルベニア州の医療記録に登録されている人の中から無作為に7,785人を選んでアンケート調査を実施したところ、フラッキングが行われている大規模なガス井から離れた地域と比較して、ガス井の近隣で慢性鼻副鼻腔炎と偏頭痛を同時に抱える人が49%多いことがわかりました。慢性鼻副鼻腔炎と高度の疲労感を訴える人は近隣の方が88%高く、偏頭痛と高度の疲労感を同時に抱えている人は95%高くなっています。そして、すべての症状を抱えている人の割合は、離れた地域よりも84%高いという結果でした。

  ここまで読めば次に何がくるか想像できると思いますが、フラッキングがこれらの症状の原因になっているかどうかは不明です。

  このように、フラッキングが行われている地域での健康に関する調査結果はここ数年で増えてきていますが、フラッキングと疾病の因果関係についてはまだ解明されていません。

  フラッキングが行われているガス井の近隣住民が健康を損なう一方で、オイル/ガス企業は健康被害を疑われながらも、訴訟を起こされて負けるまでは、過去のたばこ訴訟のように、「フラッキングが原因ではない(今はこの段階)」から、「フラッキングは病気の原因になるが、あなたの病気の原因がフラッキングだと言い切れる証拠はない」に至るまで、延々と被害を認めずに利益を追及し続けるであろうことは想像に難くないのですが(おまけに最後には敗訴ではなく和解を選ぶはず)、フラッキングのサイト周辺には低所得層が多く住む傾向があり、病気になっても十分な医療サービスを受けられるとは限らないので、一刻も早く因果関係を解明しなければなりません。

【参照文献】
1. Rabinowitz P, Slizovskiy I, Lamers V, Trufan S, Holford T, Dziura J, et al. 2015. Proximity to Natural Gas Wells and Reported Health Status: Results of a Household Survey in Washington County, Pennsylvania. Environ Health Persp 123:21–6; doi:10.1289/ehp.1307732.
2. Casey J, Savitz D, Rasmussen S, Ogburn E, Pollak J, Mercer D, et al. 2016. Unconventional Natural Gas Development and Birth Outcomes in Pennsylvania, USA. Epidemiology 27:163; doi:10.1097/EDE.0000000000000387.
3. Rasmussen S, Ogburn E, McCormack M, Casey J, Bandeen-Roche K, Mercer D, et al. 2016. Association Between Unconventional Natural Gas Development in the Marcellus Shale and Asthma Exacerbations. Jama Intern Medicine; doi:10.1001/jamainternmed.2016.2436.
4. Tustin A, Hirsch A, Rasmussen S, Casey J, Bandeen-Roche K, Schwartz B. 2016. Associations between Unconventional Natural Gas Development and Nasal and Sinus, Migraine Headache, and Fatigue Symptoms in Pennsylvania. Environ Health Persp; doi:10.1289/EHP281.

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