『産業革命前からこれまでの気温上昇は何度なの?1.5℃にどれくらい迫ってるの?』で、米航空宇宙局(NASA)、米海洋大気局(NOAA)、そして気象庁を統合して1891年から2016年7月までのデータ分析したところ、約125年で世界平均気温は約1.3℃上昇していました。
世界平均気温の偏差(基準年は1891年~1920年)。NASA、NOAA、気象庁の世界平均気温データを元に算出。
「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」において努力目標として明記された「産業革命前比1.5℃未満」の壁は目の前に迫っており、このまま現在の排出量を続けると仮定した場合、1.5℃以上の気温上昇につながる累積二酸化炭素排出量を上回るまでに残された期間は、2016年の年初から5年2ヶ月しかありません。
NASAゴッダード宇宙研究所のディレクターを務める気候科学者のギャビン・シュミット氏は、急激な気温上昇について英ガーディアン紙のインタビューに「過去30年で私たちは異常な領域に入りました。20世紀に見られたような気温上昇の傾向は、過去1000年間で前例がありません。」と答えています。
また、1.5℃未満の目標に関しては「1.5℃未満のラインを維持するためには、急速かつ大幅な二酸化炭素排出量の削減もしくは組織的な地球工学を行うことが要求されます。それはまず無理でしょう。私たちは2℃未満を達成するために必要な排出量削減すらもしていないのですから。」と指摘しています。
おっしゃるとおり過ぎて首がもげます。
西暦500年以降の世界平均気温の偏差。黄緑の線は氷床コアや珊瑚、年輪などに含まれる化学物質を分析して算出した古気候のデータ。青線は温度計による測定データ。Source: NASA Earth Observatory
このグラフの黄緑のラインと19世紀以降の青線を比較すると、少なくとも1000年さかのぼっても現在より温暖だった期間も、これほど急激に気温が上昇したこともありません。
通常、氷期から間氷期に移行するときには、約5000年の時間をかけて4℃から7℃気温が上昇します。しかし、20世紀に見られた100年で0.7℃の気温上昇は、その約10倍もの速さになっています。
コンピュータモデルによると、来世紀の気温上昇は2℃から6℃となっていますが、これは過去200万年の間に温暖化が起こった際の、5000年あたりで5℃という平均的な気温上昇と比べて20倍以上の速さで進むことを意味します。これは極めて異常な現象です。
このような状況を受け、シュミット氏がTwitterで「著名な気候科学者」を対象に「1.5℃未満」を達成する可能性についてアンケートをとっていました。
Calling 'high profile' climate scientists (== those on Twitter). Below 1.5°C:
— Gavin Schmidt (@ClimateOfGavin) August 30, 2016
1.5℃未満を「努力すれば可能」と答えたのは、全回答者259人のうちわずか8%と、とても現実的な結果になっています。
「10%未満("Very unlikely")」が54%、「地球工学(二酸化炭素の回収貯蔵など)を用いた場合のみ可能」は38%と、著名な気候科学者(と自己認定している or そんなの気にもせずに回答した著名でない気候科学者&素人)は「1.5℃未満はほぼあり得ない」と考えているようです。
まあ、どうしてこうなったのかとこれからどうなるのかを最もよく知っている人たちなので、現在の気候科学と気候変動対策を取り巻く過去数十年の政治の流れを見ていれば、このような結果になるのはうなずけます。
というか、この期に及んでもまだ努力すれば可能と考える気候科学者が8%もいるのかと、そのポジティブさに頭が下がる思いです。でも、停滞している流れを変えるために必要なのは、そういうポジティブさだったりするのですよね。
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