石炭や石油、ガスなどの化石燃料がもたらす弊害は二酸化炭素排出による気候変動だけでないことは、これまでにも記事にしてきました。化石燃料の使用が主な原因の大気汚染により年間550万人が早死にしているという研究結果や、シェールガスの採掘に用いられるフラッキングに起因する大気や水の汚染、騒音などによる健康被害、フラッキング後のガス井に注入される使用済み廃液による地震の増加、石炭火力発電所が人種的マイノリティや低所得層が多い地域に建設される傾向があること、石炭や原油、ガスなどの採掘から発電に至る過程で犠牲になる鳥が再生可能エネルギーに比べて圧倒的に多い(「バードストライク」といえば風力発電のイメージがあるかもしれませんが、化石燃料はその比ではありません)ことなど、化石燃料は温暖化以外にも様々な問題を抱えています。
化石燃料を燃やしたときに発生するのは、二酸化炭素などの温室効果ガスだけではありません。そして、前述したように排出物の中には大気を汚染し人間の健康を害する物質も含まれています。
石油・ガス産業による大気汚染が原因で、2025年までにアメリカで夏の間に子どもたちが合計で75万回ぜんそく発作を起こすようになるというレポートを、米非営利環境保護団体である Clean Air Task Force(CATF)が発表しました。
石油とガス由来のスモッグによる影響を初めて定量化したレポート「Gasping for Breath」で、研究者は米環境保護庁(EPA)に提出されている排出目録(National Emissions Inventory)のデータを元に、紫外線と熱に反応してスモッグ(表層オゾン)を形成する主な成分であるメタンと揮発性有機化合物(VOC)に注目して健康への影響を分析しました。
特に、ガソリンやベンジン、フォルムアルデヒドなどのVOCは多くが発がん性物質でもあり、また、空気よりも重いために地表付近に滞留しやすく、ぜんそく発作の原因となることなどからその影響が懸念されています。
そして、CATFがコロラド州立大学の研究者と共同でデータ分析を行ったところ、石油とガスの製造・燃焼・運搬の各過程において排出・漏洩したVOCやメタン、窒素化合物などが形成した表層オゾンが原因で、2025年までに最も影響が出やすい夏期に子どもたちが延べ75万回のぜんそく発作を起こすことになるという結論に至りました。
1年あたりの石油とガスに由来するVOC排出量(単位: トン)
上の地図は、石油とガスに由来するVOCの量を表したものです。テキサス州やオクラホマ州、コロラド州、ワイオミング州などでVOCの排出量が多くなっています。
これらの州でフラッキングが盛んに行われているのは、決して偶然ではないでしょう。
夏期における子ども1万人あたりのぜんそく発作リスク
これは、子ども1万人あたりで何回のぜんそく発作が起こる恐れがあるかを表した地図です。先ほどの地図と見比べると、VOCの量が多い州はぜんそく発作の発生リスクも高くなっています。
油井&ガス井(黄色)と表層オゾンの量が多い都市(茶色)を表した「Threat Map(脅威マップ)」
上の地図は、すべての油井とガス井の位置と表層オゾンの量が多い地域を表しています。テキサス州ダラスやヒューストン、ニューヨーク、ワシントンDC、コロラド州デンバーなど大都市圏の表層オゾンの量が多いことがわかります。
ぜんそく発作発生リスクが最も高い10都市圏
夏期における子どものぜんそく発作件数が最も多い10大都市圏が並んでいる表は、先ほどの地図のうち、表層オゾンの量が多かった都市の数値をまとめたものです。
テキサス州ダラスフォートワース大都市圏で見込まれる子どものぜんそく発作は45,880件で、他の都市圏と比較して圧倒的に多くなっています。
テキサス州はその他にもヒューストンとサンアントニオが不名誉なトップ10入りを果たしています。
ぜんそく発作発生リスクが最も高い20州
ここでもテキサスは他の追随を許すことなく圧勝です。さすが汚染企業天国といわれるテキサス州だけのことはあります。
このような現状に対し、気候変動対策としてオバマ政権はメタンガスの排出規制を打ち出しましたが、適用されるのは新規事業に対してのみで、より汚染物質を排出・漏出させる既存の施設は規制対象にならないため、著しい改善を期待することはできません。
レポートは特筆すべき点として、米東海岸の都市は石油・ガス関連施設が少ないにもかかわらずオゾンの量が多い(上の「Threat Map(脅威マップ)」で東海岸を確認すると、黄色い地域と茶色い丸の地域がずれています)のは、表層オゾンが内陸から風に流されて大西洋沿岸に運ばれるためだそうです。つまり、汚染が発生する地域と被害を受ける地域が異なる不公正が起こっていることになります。巻き添えを食う都市とそこに住む人たちはたまったもんじゃありません。
そして、今後の見通しとして、気温の上昇に伴って表層オゾン濃度は高くなるため、ぜんそくを含む呼吸器系疾患などの健康被害も増えるだろうとレポートは指摘しています。
子どもたちの健康を大気汚染から守る。脱化石燃料の理由は、これだけで十分なのではないでしょうか。
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