日本の気象庁は、赤道太平洋付近における8月の海表面温度と大気循環の状況から、ラニーニャ現象がすでに発生しているとみられ、今後冬にかけて70%の確率で継続するであろうと発表しました。
そうか、ついに、やっと世界平均気温を下げてくれるラニーニャが始まったのか。
だが、しかし・・・・・。
米海洋大気局(NOAA)の気候予測センターは、赤道太平洋付近の海表面温度はラニーニャに近い状態にあるものの、赤道太平洋の大気循環がラニーニャ発生時の特徴を示しておらず、今後も6か月以上にわたってラニーニャが発生したと認められる条件を満たす見込みがないため、監視レベルを引き下げました。
つまり・・・・・。
気象庁「ラニーニャ発生したよね。」
NOAA「してないし。ってかしないし。」
という状態になっています。
ふたつの気象機関を比べると、海表面温度が平年よりも0.5℃以上低くなることがラニーニャ発生の条件のひとつであるのは同じですが、監視している海域が違う(気象庁は「ニーニョ3海域」を、NOAAは「ニーニョ3.4海域」を監視)のと、おそらく使っているコンピュータモデルも違い、赤道太平洋の大気循環についてもラニーニャが発生していると判断する基準が微妙に違うようです。2015年のエルニーニョのときも気象庁はNOAAよりも発生したと発表するのが早かったため、NOAAの方がエルニーニョとラニーニャが発生したとする基準が厳しいのでしょう。
日本の気象庁の方は、エルニーニョが発生していると判断した条件として、以下のことを挙げています。
- 8月のエルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差は-0.6℃で基準値より低い値だった。
- 太平洋赤道域の海面水温は、中部から東部にかけて平年より低く、西部で平年より高かった。
- 海洋表層の水温は、西部から東部にかけてのほぼ全域で平年より低かった。
- 太平洋赤道域の日付変更線付近の対流活動は平年より不活発で、大気下層の東風(貿易風)は中部で平年より強かった。
NOAAの方はどうなのかというと、わかりやすいチャートがあったのでそれを使って説明しましょう。
Credit: NOAA
NOAAの基準によると、ラニーニャが発生していると判断するには、以下のすべての条件を満たさなければなりません。
- まずニーニョ3.4海域における月平均海表面温度の平年との偏差が-0.5℃以下であること。
- 上の条件が数か月は続くと見込まれること。
- 赤道太平洋の大気循環(ウォーカー循環:太平洋西岸のインドネシア付近が通常より高温になるため大気の上昇気流も強くなり、強い偏西風となって上空を流れ、太平洋東岸で通常よりも速い流れで沈み込み、太平洋東岸から強い貿易風となって西岸へ流れるため、東岸から赤道太平洋中央付近の海表面温度と浅い範囲の海水温度が下がり、インドネシア付近の海表面温度は高くなる。以下ループ)が通常よりも強いこと(ウォーカー循環が強いと中央太平洋で降水量が少なく、インドネシア付近で降水量が多くなるなどの気象現象が見られる)。
これらの条件を満たせば、NOAAはラニーニャが発生していると宣言するのですが、現在の状況はというと、インドネシアから離れた海域の海表面温度は高くなっているものの、インドネシア近海はそうでもないため、太平洋西岸で強い上昇気流は見られず、インドネシアの降水量も通常よりも少し多い程度なのが1点目。2点目として、上空の偏西風が一部の地域では強いものの、全域にわたって強いとはいえないため、ラニーニャの条件を満たすまでには至っていないようです。
そして、コンピュータモデルの予測によると、現在の海表面温度が最も低くなっている状態とみられ、今後は上昇が見込まれています。
107のコンピュータモデルを用いて予測したニーニョ3.4海域における今後の海表面温度の偏差。紫の破線はコンピュータモデルの平均値。青の横線はラニーニャ発生条件の上限である-0.5℃のライン。赤の横線は発生条件の下限である+0.5℃のライン。Credit: NOAA
上のグラフで紫色の破線を見ると、コンピュータモデルはニーニョ3.4海域の海表面温度が上昇すると予測しています。
NOAAによる9月前半の予測では、今後秋から冬にかけてラニーニャ現象が発生する可能性は50%を切っており、冬には40%を切る見込みです。
ただ、この予測通りになるとは限りません。NOAAも、過去の例ではエルニーニョからラニーニャへ時間をかけてゆっくりと移行したこともあるため、監視レベルを下げたものの、まだラニーニャが発生する可能性はあると述べています。
そもそも、エルニーニョ現象とラニーニャ現象の観測データがまだまだ少ないことに加え、どちらとも発生しても毎回海洋と大気の状態が違うため、現段階ではあまり参考にならないと思います。
過去の例を見る限りでは、エルニーニョの後に必ずラニーニャが発生するわけではありませんが、今回のような強いエルニーニョの後には強いか弱いかは別として必ずラニーニャが発生していたのに、このままだと(NOAAの発表を基準にすると)強いエルニーニョ後にラニーニャが発生しない初めての例になります。
まとめると、「ラニーニャが発生しているのかどうかまだ微妙だからもうちょっと様子を見た方がいいんじゃないの?」といったあたりでしょうか。
上でも述べたとおり、ラニーニャ現象は世界平均気温を押し下げる効果があります。
このままラニーニャ現象が発生しない場合、秋から冬にかけて気温が下がる要因がなくなってしまうため、今年の世界平均気温が昨年を上回って観測史上最高を記録するのはほぼ確実であることに加え、来年に入っても著しい気温の低下は見られないかもしれません。
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