屋内外の大気汚染が原因で年間に約550万人が早死にしているという記事(『大気汚染で年間に550万人が早死に 半分以上が中国とインド』)を以前に書きました。世界保健機関(WHO)は、大気汚染が開発途上国に最も深刻な影響を与えているという調査結果を発表しています。また、石油・ガス産業による大気汚染が原因で、2025年までにアメリカで夏の間に子どもたちが合計で75万回ぜんそく発作を起こすようになるという研究結果もあるなど、大気汚染は早急に解決しなければならない問題です。
大気汚染が人々の健康に与える影響は、そのまま経済損失につながっています。今回、世界銀行は大気汚染によって世界が損失している経済コストが5兆ドル(512兆円)を超えており、開発途上国でその割合が高くなっているという調査結果を発表しました。
大気汚染は、肥満、食事、喫煙に次いで4番目に早死にするリスクが高く、がんや心臓疾患、肺や呼吸器系疾患の原因としても知られています。今回の調査で、早死しにした人たちの治療費を含まない大気汚染による病気が原因の損失日数(働けなかった日数)だけで、世界は2250億ドル(23兆円)を失っていると指摘しています。
この調査で世界銀行が2013年の「厚生の損失(この場合、人々が大気汚染によって早死にしないために要するコスト)」を算出したところ、世界で総額約5兆1千億ドル(522兆円)にのぼることがわかりました。
世界の各地域における大気汚染による厚生の損失のGDPに対する割合。大気汚染物質は大気中のPM2.5、家庭内のPM2.5およびオゾン。Source: World Bank and IHME., 2016
大気汚染による厚生の損失には地域差が大きく、急激な産業化が進んでいる東アジアと太平洋地域、そして南アジアでは経済損失がそれぞれGDPの7.5%と7.4%に達していますが、ヨーロッパと中央アジアでは5.1%、北米は2.8%と低い値になっています。また、開発途上国が多い地域では家庭内のPM2.5による厚生の損失の割合が高くなっています。
世界銀行はこの原因について、開発途上国では空気が汚染している環境で暮らす人が多く、その中には医療サービスを受けられない人も多く含まれるためとしています。開発途上国では90%の人々が汚染された空気の中で暮らしており、世界で早死にした人と病気になった人の93%はそれらの地域の人々だと指摘しています。
屋外の大気汚染は自動車の普及によって多くの国で増加が見られますが、開発途上国における家庭内の空気の汚染は、エネルギーが普及していないために調理と暖房に木や炭などを用いることが原因と考えられています。
1990年から2013年における大気中のPM2.5による死亡率と国民ひとりあたりの厚生の損失の変化。Source: World Bank and IHME., 2016
さて、最後に日本はどうなのかを見てみましょう。
上のグラフは、1990年から2013年までに、大気汚染(大気中のPM2.5)によって亡くなった人の割合と、国民ひとりあたりの厚生の損失がどのように変化したかをまとめたものです。
多くの先進国(所得の高いOECD国/オレンジの丸)が左下の「死亡率が低下。厚生の損失が減少」に属しているのに対し、日本はバングラデシュ、タイ、パキスタンなどの開発途上国と同じ「死亡率が上昇。厚生の損失が増加」という先進国が属してはならないグループに入っています。グラフに書かれているとおり、所得の高いOECD国でこのグループに属しているのは、28か国中日本だけです。
1990年に早死にした人は44,843人 でしたが、2013年には64,428人に増加し、厚生の損失は1990年の約1兆4千8百億円(GDPの3.95%)から2013年は2兆4千6百億円(GDPの5.30%)に増加しています。
日本がこの位置にいることに意外という印象はありません。しかし、環境汚染よりも、人々の健康よりも企業利益を優先させてきた日本らしい結果であるといえるのがなんとも切ないところです。
開発途上国に日本を加えた、大気汚染による厚生の損失の増加や死亡率の高さが著しい国々に対して、大気汚染のモニタリングと分析、職場や家庭における汚染を軽減させるための政策変更、汚染を改善させるためのテクノロジーか初への投資、充実したヘルスケア普及の徹底などを行うよう、国際社会が積極的に働きかける必要があるでしょう。
【あわせて読んでほしい記事】
この記事へのコメント