グリーンランドの氷床が考えられていたよりも速く融解している& 東南極の氷床が考えられていたよりも早く融解するかもしれないという研究結果

  今週は北極と南極の氷床融解に関するよろしくない研究結果の発表が相次ぎました。気候変動に関する極地域の研究結果で明るい未来が見えてホッとした記憶がないので、ここで取りあげるのはいつも「予測よりも速く(早く)」という表現になってしまいます。

    まずはグリーンランドの方から。科学誌「サイエンス・アドバンス」に掲載された研究結果(Khan et al. 2016)では、これまで発表された研究はグリーンランドにおける氷床の融解速度を低く見積もっていたため、従来考えられていたよりも年間で約200億トン多い淡水が海洋に流れ込んでいると指摘しています。

  グリーンランドの氷床の融解速度は、衛星によって氷床の体積の変化を計測し、気候モデルによって算出されます。しかし、従来の研究ではこの「体積の変化」が氷なのか、氷と接している陸地なのかの見積りを誤っていたため、氷の融解速度に狂いが生じていたそうです。

  陸地の上にあった大量の氷がとけて海洋に流れ込むと、その分氷は軽くなります。柔らかいマットの上に立って、大きな氷を頭の上に載せていると考えてください。氷がとけてなくなると、軽くなります(氷がとけて流れる水はマットの外に出ることとします)。そして、軽くなるとマットに沈んでいた体が浮き上がります。

  同じことがグリーンランドの陸地にも起こっています。氷床が海洋に流れ込んで軽くなった分、沈んでいた陸地は上方向に反発して戻っていきます。最終氷期以降の陸地の反発をこれまでの研究は小さく見積もっていたことがわかり、それを修正してコンピュータモデルでシミュレーションを行った結果、これまで考えられていたよりも1年あたりで氷床が約200億トン多くとけて海洋に流れ込んでいたことがわかりました。これを速度にすると、従来の研究よりも7.5%速く氷床が融解していることになります。

  この研究結果は、今世紀末までにグリーンランドのどの地域でどれくらいの氷床が融解するのかを予測するうえで重要な指標になると研究チームは述べています。また、この氷床融解による陸地の反発は南極でも起こっていると考えられるものの、グリーンランドと比較して南極大陸は大きすぎるため、現時点では南極で同じ研究を行うのは難しいようです。

  次に、南極の氷床についての研究結果です。これまでの南極における古気候の研究で、標高の高い地域でみつかっていた珪藻(ケイソウ)について、コンピュータモデルでシミュレーションを行ったところ、二酸化炭素濃度が現在とほぼ同じ400ppmで気温が今よりも1℃から2℃高かった鮮新世に、東南極の一部の地域で氷床の融解が起こっていたという研究結果(Scherer et al. 2016)が科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載されました。

Scherer et al 2016 - Sirius Group exposures near Mount Fleming, Antarctica, circa 1986.jpg
Mt. Fleming, Antarctica (Credit: Reed Scherer, Northern Illinois University)

  この研究では、鮮新世中頃(300万年から450万年前)の、今と気候条件が類似していた温暖期に、西南極だけでなく、東南極でも海岸線から450kmを超える内陸部まで氷床がとけていたことがわかりました。西南極の氷床がすべてとけて海洋に流れ込めば約3メートルの海面上昇につながりますが、現在とほぼ同じ気候条件で東南極の氷床までとけると、さらに海面上昇は加速することになります。

  今回の研究にも参加している米マサチューセッツ大学の気象学者のロバート・デコント氏と米ペンシルベニア州立大学の気象学者のデービッド・ポラード氏が今年3月に発表した研究結果では、南極大陸の氷床の融解が加速することによって、今世紀中に最大で2メートル、2500年までには13メートルから15メートルの海面上昇が起こると指摘しており、今回の研究結果はそれをサポートする形になっています。

  海面上昇が与える影響は極めて大きいため、より確度の高いシミュレーションが可能になれば、被害を最小限に抑えることにつながります。研究結果は望ましいものではありませんが、気候変動対策を計画・実施するうえで、不確かな部分が少しずつでも解明されていくことだけは歓迎していいでしょう。

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【参照文献】
Khan, S. A., Sasgen, I., Bevis, M., Dam, T. Van, Bamber, J. L., Wahr, J., … Munneke, P. K. (2016). Geodetic measurements reveal similarities between post – Last Glacial Maximum and present-day mass loss from the Greenland ice sheet, 3(September).
Scherer, R. P., DeConto, R. M., Pollard, D., & Alley, R. B. (2016). Windblown Pliocene diatoms and East Antarctic Ice Sheet retreat. Nature Communications, 7, 12957.

【参考記事】
Antarctic mystery solved?|Northern Illinois University

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