【独り言】 ディカプリオの気候変動ドキュメンタリー『地球が壊れる前に』を観て感じたこと

Before the Flood Title Screen JP.jpg

  11月8日(火)に行われる米大統領選を前に、米俳優で国連平和大使でもあるレオナルド・ディカプリオが有権者に気候変動問題の深刻さを訴え、投票行動につなげてもらうために製作した、気候変動がテーマのドキュメンタリー映画『地球が壊れる前に(原題:Before The Flood)』が日本時間の10月31日(月)から11月8日(火)14時までの期間限定で公開されています。

  このドキュメンタリーでは、ディカプリオが北極圏や中国、インド、インドネシアなど世界各地を訪れ、気候変動が人間の生活や生物、生態系にすでに及ぼしている深刻な影響や、気候変動による今後の影響などについて識者や現地の人たちと行ったインタビューを記録しています。

  ドキュメンタリーが扱っている主なトピックは以下の通りです。

  • カナダの北極圏に暮らす先住民
  • 気候変動否定派による気候科学と気候科学者への攻撃
  • 中国の大気汚染が引き起こす日常的な健康問題
  • インドのエネルギー環境整備問題
  • キリバスなど海抜の低い島しょ国への海面上昇の影響
  • 北極圏の温暖化によるさらなる地球温暖化の加速
  • 干ばつ地域の地球規模の拡大

  ここからは個人的に印象に残った部分を書き出していきます。

Sunita Narain quote 01 - U.S. consumption destroies the Earth.jpg

  インドでは、デリーで科学環境センター所長を務めるスニタ・ナライン氏がディカプリオとのインタビューで「アメリカ人の消費が地球を壊す」と指摘します。

Sunita Narain quote 02 - Energy consumption per capita comparison.jpg

  アメリカのひとりあたりのエネルギー消費量はフランスの1.5倍、日本の2.2倍、中国の10倍、インドの34倍、ナイジェリアの61倍であることを指摘し、消費行動を変える必要があると訴えます(ディカプリオは「無理」と答えますが)。

  これはアメリカだけの問題ではありません。ひとりあたりのエネルギー消費量がアメリカの半分以下とはいえ、世界の中ではそれでも大量にエネルギーを消費している日本にも同じことが言えるのです。

Sunita Narain quote 03 - Stop climate change requires lifestyle transformation.jpg

  そして、ナライン氏は気候変動対策について議論する際には、生活スタイルや消費行動をその中心にする必要があると語っています。

  しかし、経済が成長し続けることを前提にして安価で資源の採掘から製品化を行い、大量消費させる資本主義の仕組みの中では、国や国際レベルにおける政策作りに大企業やそのロビーが大きな影響を与えるため、このような議論を成熟させるのは極めて困難な状況といえます。

Anote Tong quote 01 - Want to going away without worrying about 12 grandchildren.jpg

  キリバス共和国のアノテ・トン元大統領は、将来的な水没を逃れることができない自国について、12人の孫たちの住む家を心配せずにこの世を去りたいと述べています。キリバスは、国民が移住を選択したときのためにフィジーに移住用の土地を購入済みですが、その土地は内陸部にあるため、これまでのように豊かな海の恵みを中心にした生活を続けることができなくなります。

  気候変動の原因を作り出していない島しょ国の人たちが、産業革命以降に僕たち先進諸国の人間が続けてきた生活スタイルの犠牲になるのです。僕たちには、彼らのためにできることがあるはずです。

Gidon Eshel - Changing your diet.jpg

  バード大学で農業と気候の関係を研究するギドン・エシェル氏は、森林破壊の最大の原因は牛肉の生産にあると指摘します。アメリカでは土地の47%が食料の生産に利用されていますが、そのうち70%が牛の餌を生産するために使われているそうです。また、牛が排出するメタンは二酸化炭素よりも強力な温室効果ガスであり、アメリカで排出される温室効果ガスの10%から12%が牛肉の生産によるものと述べています。エシェル氏は、土地利用が牛肉生産の20%、温室効果ガスの排出量が10%ですむ鶏肉へのシフトなど、食生活を変えることで状況を転換できると語っています。

  ハーバード大学で経済学を教え、過去に共和党の重鎮たちのアドバイザーを務めたこともあるグレゴリー・マンキュー氏は、究極の気候変動対策として炭素税の導入を推奨していますが、政治家が望まないためにこれまで実現されなかったと苦笑します。気候変動による納税者の損失は2060年までに44兆ドル(約4500兆円)にものぼると推定されており、炭素税を導入することでその損失のいくらかを未然に防ぐことも可能なのですが、日々の生活に追われる人々の理解を得るのは大変困難だと指摘しています。マンキュー氏は、炭素税の導入を求める世論の声が大きくなれば、人々の声に敏感な政治家はその声に従うと語っています。

Piers Sellers of NASA.jpg

  米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターで地球科学部門ディレクターを務め、余命に限りがあると宣告されているピアース・セラーズ博士は、気候変動によってすでに起こっている、そしてこれから起こり得る様々な脅威を挙げ、人々がそれらの脅威を認識したうえで前向きに解決策を模索し正しい対策を実施すれば、この地球規模の困難な問題を解決することは可能だと希望を語ります。

  レオナルド・ディカプリオは、ドキュメンタリーの最後を4月にニューヨークの国連本部で開催されたパリ協定の署名式で自身が行ったスピーチの「いま行動しなければ地球上に存在するすべての命が失われることになる」という言葉で締めくくり、その後に僕たちへの選択肢を示しています。

Conclusion 01 - Consume differently.jpg

  なにを買い、なにを食べ、どのようにエネルギーを得るかなど、気候変動や気候正義/環境正義問題を軽減、解決に導く消費行動を僕たちは選択することができます。気温上昇のペースを抑えるだけではなく、ドキュメンタリーでも触れられていたような、開発途上国の低所得層に偏っている気候変動の深刻な影響や、森林の乱開発とそれに伴う大気汚染による健康問題を軽減し、人間以外の生物の絶滅を防ぐことができます。

  残念ながら、個人レベルでできることには限界があります。でも、自分の生活様式を変えたら、次はそれを小さなローカルコミュニティレベルに広げ、そこからさらに大きなコミュニティへと拡大していけば、より速くより広い分野にわたってこれらの問題を解決していくことができます。

Conclusion 02 - Vote for climate leaders.jpg

  そのためには、気候変動問題や気候正義/環境正義問題に真剣に取り組む政治家を選ぶことが大切です。化石燃料への補助金の廃止、再生可能エネルギーへの投資の促進、化石燃料の採掘の抑制、炭素税の導入などを訴える政治家を、あらゆるレベルの議会に送り込むことで、気候変動対策を着実に進めることができるようになります。

  この地球上に暮らす僕たち人類やその他の生物たちの近い将来と、まだ生まれていない未来の世代にどんな世の中を残すのかは、今後数十年の僕たちの選択にかかっているのです。

  公開期間はあとわずかですが、ドキュメンタリーに興味を持った方は、YouTubeなどで全編をご覧になってください。

  ディカプリオのドキュメンタリーとこの記事が、だれかにとってなにかを感じ考えるきっかけになりますように。

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