ダコタ・アクセス・パイプラインの現行ルートをオバマ政権が却下 ルート変更へ

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※ ここまでの話

  先住民に対する環境正義問題と人権問題に発展していた、米ノースダコタ州からイリノイ州を結ぶ全長約1,800kmの「ダコタ・アクセス・パイプライン」は、オバマ政権によって一部地域における一時的な建設中止命令が出た後に、米連邦控訴裁によってスタンディングロック・スー族が申し立てた恒久的な建設中止が棄却され、米陸軍工兵隊が所有するミズーリ川に造設されたオアへ湖周辺においてのみ建設が中断していましたが、本日(2016年12月4日)の午後にオバマ政権がそのオアへ湖周辺の土地利用権を認めない判断を下したため、スタンディングロック・スー族の居留区付近を通過する建設ルートの実現が困難になりました。

  オアへ湖周辺を除く地域で建設が再開されて以降、抗議活動を続ける先住民グループとそのサポーターへの警察による暴力行為がエスカレートし、警察が使用したと思われる(抗議参加者は警察が投げたと主張するも、警察側はこれを否定)衝撃手榴弾によって片腕を切断する可能性を伴う重傷を負う参加者が出るなど、最終判断の遅れがさらなる暴力による人権侵害行為を引き起こすのではないかと懸念されていました。

  米陸軍工兵隊は、抗議参加者に対し、12月5日までにこれまで抗議活動が行われていた場所から少し離れたフリースピーチゾーンへのキャンプ地の移動命令を出し、ノースダコタ州は厳しい冬の訪れを理由に抗議活動を中止するよう命令し、キャンプ地がある地域に緊急車両を送らないなどの措置を先住民側に通達していました。

  また、先住民グループに対する警察の暴力による人権侵害行為の阻止を目的に、12月4日から7日までの4日間の予定で、2千人から3千人規模の米軍退役軍人が先住民たちの盾になるために抗議活動が行われているノースダコタ州キャノンボールのキャンプ地を訪れ始めていましたが、まるでそれに合わせるかのように、現地時間4日午後3時頃に、オバマ政権からスタンディングロック・スー族に対し、オアへ湖周辺の土地利用権を認めない旨が伝えられました。


  先住民グループや退役軍人、その他のサポーターたち数千人が集うキャンプ地では、オバマ政権の判断を喜ぶ人々の姿が多く見られ、スタンディングロック・スー族も感謝の声明を発表しましたが、多くの人たちが今後の行く末を見守るために、まだキャンプ地に留まると話しています。これは、過去に連邦政府が先住民と交わした条約や約束をことごとく破ってきたことへの不信感がまだ消えていない証でもあり、今回の抗議活動がパイプライン建設を阻止するという短期的な目的だけではなく、先住民全体の人権や自治権をかけたものであることの証でもあります。

  先住民に対する差別や不公正をなくし、米連邦政府と対等な政府対政府の関係を築くまで、彼らの活動は続けられていくことでしょう。先住民にとって、今回の結果は小さな目標を達成したに過ぎません。

  さて、米陸軍工兵隊はルート変更に関し、声明の中で「一般市民の意見を反映させた環境影響評価報告書(EIS)を作成するのが最良の方法」と述べています。環境への影響について、これまでは小さなブロックに区分した上でそれぞれの地域への影響を評価し、短い期間で建設を認めてきましたが、もしも今後EISを建設ルート全体(全長約1,800km)に対して作成することになった場合、昨年オバマ政権が建設を却下したキーストーンXLパイプラインのように、評価が終了するまでに長い期間を要するため、パイプライン建設企業であるエナジー・トランスファー・パートナーズの経営を圧迫し、建設を断念する自体になる可能性も考えられます。しかし、そうなるまでに同社が訴訟を起こすのは間違いないでしょう。

  今回のオバマ政権の判断は、あくまでもスタンディングロック・スー族の居留区付近でミズーリ川を横切るルートが却下されただけで、パイプライン建設そのものが中止になったわけではありません。建設企業側が事業を中止しない限り、パイプラインは必ずどこかでミズーリ川を横切ることになります。そして、ルートが変更されても、環境弱者が周辺に多く住む地域の近くを通過する可能性が高いことに変わりはありません。

  今回のパイプライン建設問題は、アメリカだけの問題でも、先住民だけの問題でもありません。わたしたちが化石燃料に依存する生活様式を続ける限り、別の新たな「スタンディングロック・スー族」が不公正の対象になります。

  環境正義問題や人権問題に、「彼らの問題」は存在しません。

  すべて、「わたしたちの問題」なのです。

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