スタンディングロック・スー族への環境正義問題に発展している、ノースダコタ州からイリノイ州を結ぶ1800kmを超えるダコタ・アクセス・パイプライン建設は、オバマ政権による環境影響評価報告書の作成を伴うルート変更の決定をトランプ政権が覆して従来のルートによる建設を認可し、その判断を不服とした先住民側が「宗教の自由回復法」に基づいて一時的な建設中断を求めていましたが、2月13日にワシントンD.C.連邦地方裁判所のジェームズ・ボアズバーグ判事がその訴えを退けました。
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ボアズバーグ判事の判断を受け、スタンディングロック・スー族は翌2月14日、米陸軍工兵隊を相手取り、オアへ湖の地下をパイプラインが横切るルートでの建設に最終認可が下りるまでの過程において、十分な説明がないままでオバマ政権の「環境影響評価報告書が必要」という判断を覆したことなどが国家環境政策法の基準を満たしておらず、また、パイプライン建設に際して先住民の居留区に影響を及ぼす可能性があったにもかかわらず、事前に連邦政府と先住民間で「政府対政府」としての話し合いが行われなかったことが条約に違反しているとして訴えを起こしました。今後は、前回の「宗教の自由回復法」に基づく訴えよりも広い範囲でパイプライン建設の是非が問われることになります。
今回の記事では、スタンディングロック・スー族がなぜここまで強い姿勢でパイプライン建設に反対しているのか、そしてその妥当性について手短に触れてみようと思います。
ノースダコタ州やサウスダコタ州などに定住していた8つの先住民部族と米連邦政府は、1851年に合意の基に定めた先住民の居留区を侵害しないという「フォート・ララミー条約」を締結しました(その後、先住民居留区で金が発見されると米連邦議会が条約を反故)。スタンディングロック・スー族などの先住民が、ダコタ・アクセス・パイプライン建設や石油採掘などの企業や連邦政府による開発に強い反対姿勢を示すのは、それらの行為が「1851年に条約が締結されたときの先住民居留区内」で行われているのが大きな理由のひとつです。
ダコタ・アクセス・パイプラインが建設中のスタンディングロック・スー族居留区付近の土地は事業主体と米陸軍工兵隊の所有地になっていますが、「1851年のフォート・ララミー条約」締結時には先住民が所有していました。パイプラインが横切るミズーリ川の水も、彼らにとっては先祖代々受け継いできた聖なる水です。
先住民側から見れば、エナジー・トランスファー・パートナーズ社と連邦政府が行っていることは、数百年前に勝手に踏み入ってきた不法移民が先祖を殺戮した末に強奪した土地を自分のものだと主張し、連邦政府主導で締結された条約に反して十分な説明もなく聖地を汚す行為に他なりません。
また、エナジー・トランスファー・パートナーズ社がパイプラインを埋設するために掘り返した土地から先住民の文化財が発見されたため、米国自然史博物館と1500人を超える考古学者らによって先住民の文化財保護のために建設中止を求める署名が集められ、昨年9月にオバマ大統領と司法省、米陸軍工兵隊に届けられています(ノースダコタ州の考古学チームは、建設地からの文化財の発見を否定しています)。
さらに、先住民と連邦政府の「政府間交渉」抜きのパイプライン建設は、米国内の条約や法を逸脱している可能性があるだけでなく、採択時には反対したもののオバマ大統領が合意した「先住民族の権利に関する国際連合宣言(法的拘束力はなし)」の32条(先住民は自治区・居留区の土地や資源を開発権利を有し、国家政府は開発を認可する前の段階において先住民に対して説明義務を有する)にも反していると国連は指摘しています(オバマ大統領が最終的にダコタ・アクセス・パイプライン建設を却下したのは、この国連の宣言を受け入れたことにも見られるように、これまでの連邦政府と先住民の関係を修復しようと努めた結果でもあります)。
これらの歴史的背景と先住民の基本的人権や尊厳を無視し、これまで幾度も繰り返してきたように、連邦政府が先住民との約束を一方的に破り、また、政府対政府として先住民の意見を反映させるための話し合いを持つことなく、居留区の環境への影響を十分に調査しないままでパイプラインの建設を続行することが公正と倫理に反しないのかを考慮に入れたうえで、司法は判断を下されなければなりません。
本来、大統領がだれであるとか、どの国で暮らしているかに関係なく、すべての先住民の人権と尊厳は守られなければならないものです。
そして、だれかに対する不公正や不正義をなくすことは、自分への不公正や不正義をなくすことに繋がります。逆に、だれかに対する不公正や不正義を見逃すことは、自分への不公正と不正義を許容することに繋がります。
だからこそ、わたしたちはこの問題と無関係ではいられないのです。
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