北極と南極の海氷面積が過去最小ペース  いったい何が?

  昨年の夏以降、北極ではおかしな現象が度々起こっています。海氷が夏に最小面積を記録したあと、冬に最大面積を記録するまでに大きな乱高下が見られることはあまりないのですが、近年それが目立つようになり、今季は海氷面積の拡張期に入ってから、11月、12月、1月、そして2月に数日ずつ、北極圏(北緯80度以北)の気温が平年よりも10℃から15℃以上高くなる時期があり、海氷面積の拡大を妨げています。

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北緯80度以北の気温(単位: ℃)。Credit: Zach Labe

  上の地図の黄色い線は北緯80℃以北の地域における2016年の平均気温、赤い線は同地域における2017年の平均気温です。青の線は1958年から2002年の平均気温を表しています。昨年の秋以降(黄線)、11月と12月、そして今年に入ってから(赤線)1月と2月に急激な気温の上昇が見られます。この気温の上昇が数週間続くようなことはなく、数日で終息するのが特徴です。これは、北大西洋で発生する低気圧の影響を受けて、暖かい空気が北極圏へ流入するためです。そして、その影響を受けて、本来は拡大を続けるはずの海氷がとけ、一時的に拡大速度が落ちてしまいます。

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2017年2月17日時点の北極の海氷面積(単位: 平方キロメートル)。Credit: NSIDC

  上のグラフは北極の海氷面積を表しています。赤の線は海氷の冬季最大面積が過去最小を記録した2016年、緑の破線は夏の最大面積が最小を記録した2012年の海氷面積です。2016年の夏以降を追っていくと、急激な気温上昇が見られた11月と12月に、一時的に面積が縮小しています。今年に入ってからも(水色の線)、1月に海氷の成長が鈍っている時期を確認できます。米国立雪氷データセンター(NSIDC)によると、昨年の10月から今年1月まで、4か月連続で北極の海氷面積は各月の観測史上最小面積を更新しています。

  しかし、このグラフからわかるように、先日の急激な気温上昇以降はまた海氷面積が拡大し、冬季の最大面積が観測史上最小を記録した昨年よりも、現在の海氷面積は大きくなっています。通常、北極の海氷は3月中旬に最大面積になるため、一昨年と昨年に続いて3年連続で過去最小の最大面積を記録することになるのか、注目が集まっています。

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北極の海氷の体積(単位: 1000立方キロメートル)。Credit: Zach Labe

  また、面積だけではなく、海氷の厚さの影響を受ける体積も過去最小で推移しています。体積が大きいということは、それだけ複数年凍ったままの多年氷がより多く残っていることを裏付けています。そして、厚い海氷の減少は、夏にとけやすい海氷の増加を意味します。近年は、この多年氷の減少が懸念材料になっています。

  去年の秋以降に見られるこれらの短期的な気温の急上昇が今季限りのものなのかが気になるところですが、トロント大学の大気物理学の専門家であるケント・ムーア氏の研究結果(Moore 2016)によると、従来は10年に1度か2度くらいしか起こらなかったこれらの極端な気象現象が、北極圏の気温上昇に伴って起こりやすくなっているそうです。

  もしもこのような現象が頻繁に起こるようになり、常態化してしまうようなことになると、気温の上昇によって海氷がとけ、海氷のとけた部分の海水が太陽エネルギーを吸収するために海水温が上昇し、その影響で気温が上昇する「北極温暖化増幅」と呼ばれる正のフィードバックが止まらなくなってしまいます。

  また、北極の温暖化が進めば、中緯度地域との気温差が小さくなるためにジェット気流の湾曲が大きくなり、北極の寒気が中緯度地域に流れ込む機会が増加して極端な気象現象の原因になると同時に、中緯度(特に北大西洋)の暖かい空気が北極圏に流入してさらに北極の温暖化が進む可能性も高くなると考えられています。

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2017年2月17日時点の南極の海氷面積(単位: 平方キロメートル)。Credit: NSIDC

  海氷面積の動向がおかしいのは北極海だけではありません。過去数年間、最大面積を記録していた南極の海氷が、今季は最小面積で推移しています。こちらの原因はまったくわかりません。近年の海氷の拡大もよくわかっていませんでしたが、今季になってなぜそれが過去最小面積を記録する可能性が高くなるようなことになってしまったのか、これは今季限りの現象なのか、それとも来年以降もこのような傾向が続くのか、これが気候変動と関係があるのかどうかもまるでわからない状態です。

  今後数週間から1か月くらいで冬の最大面積を迎える北極の海氷と、夏の最小面積を迎える南極の海氷の、今年だけではなく長期的な傾向とその影響、そして気候変動との関連性に注視する必要があります。

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【参照文献】
Moore, G. W. K. (2016). The December 2015 North Pole Warming Event and the Increasing Occurrence of Such Events. Scientific Reports, 6(December 2015), 39084. http://doi.org/10.1038/srep39084

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