前回はオバマ政権時代の気候変動対策を大きく見直すためにトランプ氏が署名した大統領令についてまとめましたが、記事で触れたように、トランプ政権による政策の多くは法廷で争われる可能性が高いうえに、今後のエネルギー市場の動向も不透明なため、大統領令によるアメリカの温室効果ガス排出量への影響については不確かな要素が多く、先行きは不透明です。
アメリカは、パリ協定における温室効果ガス排出量削減目標を、2025年までに2005年比で26%から28%と定めています(日本は2030年までに2013年比で26%削減。2005年比だと25.4%の削減。)。
もしもトランプ政権が大統領令通りにオバマ政権の気候変動対策の撤廃と見直しを実施した場合、アメリカの温室効果ガス排出量がどのように推移することになるのかを、リサーチコンサルタント企業のロジウム社が分析しているので紹介します。
Source: Rhodium Group
上のグラフは、オバマ政権の気候変動対策(緑)と、トランプ氏の大統領令による撤廃・見直しが行われた場合(青)の温室効果ガス排出量の推移を分析したものです。
以前から指摘されていましたが、オバマ政権の「気候行動計画(Climate Action Plan)」を実行しても、目標である「2025年までに2005年比で26%~28%の温室効果ガス排出量削減」には程遠く、2030年にやっと近づくといった感じです。
もしもトランプ政権が大統領令に沿って政策を実行(不履行)すると、ご覧の通り約14%しか削減できません。
Source: Rhodium Group
上のグラフは、不確かな要素であるエネルギー価格及び土壌と森林による二酸化炭素の吸収(LULUCF)を考慮に入れて、トランプ氏の大統領令通りの政策見直しが行われた場合の温室効果ガス排出量の見通しを表しています。
エネルギー価格については、天然ガス石炭、再生可能エネルギー(太陽光や風力)の価格や、供給可能な電力の生産量などによって供給バランスが変わるため、温室効果ガスの排出量の予測幅も大きくなります。
また、2014年には土壌と森林が大気から11%の二酸化炭素を吸収していましたが、土地の利用方法の変化が不透明であることや、森林による吸収率の低下が見込まれることから、時間の経過と共に予測幅が大きくなっています。
これらの分析結果で明確なのは、気候変動対策はオバマ政権時から大幅に後退するということです。
ロジウム社はレポートの最後に、今後は州や市、企業などが気候変動対策を主導し、自治体による運輸や建築分野における温室効果ガス排出規制や、企業による再生可能エネルギーの導入、二酸化炭素除去技術の開発などによって、大統領令の影響を最小限に抑えることは可能とし、今回の大統領令は自治体や企業が行動を起こすきっかけになるかもしれないと結んでいます。
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