4月29日(土)に、米ワシントンD.C.をはじめとする370か所以上で、トランプ政権による気候変動対策の見直しを求める抗議デモ「ピープルズ・クライメート・マーチ(以下「気候マーチ」)」がトランプ大統領就任100日を狙って開催されました。主催者発表によると、ワシントンD.C.では20万人が行進し、ホワイトハウスを取り囲んで抗議の声をあげました。
Time-lapse, bird's-eye video shows thousands of protesters marching toward White House for action on climate change https://t.co/yoYEIbNWAO pic.twitter.com/jNpi7WceZi
— CNN (@CNN) April 29, 2017
気候マーチには、アカデミー賞で主演男優賞を受賞した際のスピーチで気候変動について語り、昨年はドキュメンタリー映画『地球が壊れる前に』を発表した俳優のレオナルド・ディカプリオや、元米副大統領でドキュメンタリー映画『不都合な真実』で気候変動問題に大きな関心を集めたアル・ゴア氏をはじめ、米連邦議員、芸能人、気候科学者、気候変動の深刻な影響を最も受けている先住民や人種的マイノリティ、聖職者、医療関係者、労働組合、連邦政府職員、教育関係者、環境保護団体、学生、子どもや孫の将来を憂う親や祖父母、そして自分たちの未来のためにトランプ政権とたたかっている子どもたちなど、多様なバックグラウンドを持つ人々が、それぞれの思いを込めてプラカードを掲げたり、声をあげながらワシントンD.C.を行進しました。
気候マーチは今回が初めてではありません。キーストーンXLパイプラインへの反対運動に端を発した抗議活動が2014年にニューヨーク国連本部で開催された気候サミットを前にピークに達し、翌2015年にパリで開催される「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」における野心的な気候変動対策の国際合意を求めて40万人以上がマンハッタンを行進しました。
その勢いはオバマ政権にキーストーンXLパイプライン建設却下の判断を下させ、COP21では過去最高の200か国近くが合意した「パリ協定」の締結につながりました。
そして、当初はヒラリー・クリントン氏の大統領就任後にさらなる気候変動対策を求めて開催される予定だった気候マーチは、トランプ政権による気候変動関連予算の削減や、オバマ政権が残した気候変動対策の撤廃や見直し、科学を軽んじる政権の姿勢に対する抗議・抵抗の意味合いが大きくなりました。
ピープルズ・クライメート・マーチにおけるグループ分けと行進の序列(クリックすると拡大します)。Credit: People's Climate
気候マーチは、トランプ政権の気候変動対策に抗議し、政策の見直しを求めることを主目的としていますが、デモのフォーメーションを見ればわかるように、気候変動による深刻な影響に対して最も脆弱な先住民やマイノリティなどの環境弱者、労働者、子どもたちや未来の世代に対して公正な政策を求める気候正義(気候正義については「気候変動の倫理/公正的観点」を参照してください)を重視しており、このフォーメーションは前回の気候マーチから継続されています。
ディカプリオは、気候マーチの前に「気候正義のためにたたかう先住民のリーダーの方々や先住民の方々に加わることができて光栄です。わたしと一緒に、彼らと共に立ち上がってください」とツイートし、マーチ終了後にも「今日の気候マーチはわたしに未来へのインスピレーションと希望をもたらしてくれました。わたしたちはこれからも共に活動し、気候正義のためにたたかい続けなければなりません」と再度ツイートしています。
その他にも、気候マーチに参加した様々なバックグラウンドを持つ人たちの声を拾ってみたいと思います。
ルイジアナ州から参加した先住民は、「半年前、わたしの子どもたちは(洪水のために)約15センチの高さまで床上浸水したリビングルームで目を覚ましました。それなのにトランプはメキシコ湾沿岸の海洋で石油を掘削したいと主張しています。でも、わたしたちは彼にメッセージがあります。わたしたちは恐れないし、たたかうことをやめません。100年に一度、50年に一度のストームが今では毎年のようにやってきます。わたしたちは、生き残るためにたたかっているんです」とThinkProgressに話しています。
イラク戦争に赴任した経験を持つアフリカ系の退役軍人は、「気候変動は、黒人と褐色人種の抑圧に直接的に関連しています。食料不足に陥ると、わたしたちのコミュニティは線引きされ差別を受けます。気候変動はわたしたちに最も大きな打撃を与えるんです」と語っています。
サウスカロライナ州から気候マーチに参加した女性は、「わたしたちは立ち上がって、トランプ政権に子どもたちがぜん息で死ぬのはもううんざりだってわからせてやります。わたしたちは、石炭灰の貯留池のためにがんで亡くなる人を見るのも、海面上昇のせいで亡くなる人を見るのももううんざりなんです」と話しています。
コネチカット州から漁船で駆けつけた漁業を営む男性は、「わたしたちがここにきたのは、気候変動はもはや経済の問題だからです。気候変動の影響を受けるのはハチやシロクマだけじゃありません。雇用の問題なんです」とニューヨークタイムズ紙のインタビューに答えています。
「真っ先に思い浮かべるのは、草、植物、動物、ワシ、鳥、魚は水がなければ生き残れないってことです。わたしにとってだけでなく、すべての人にとって重要なことなんです」と、サウスダコタ州から駆けつけた、ダコタ・アクセス・パイプライン建設とキーストーンXLパイプライン建設の反対運動に加わった経験を持つ、先住民ヤンクトン・スー族の男性は述べています。
気候マーチという言葉から、環境保護団体や環境保護活動家などが抗議デモの中心なのではないかという印象を受けるかもしれませんが、このように様々な背景と事情を持つ人々がそれぞれの思いを胸にワシントンD.C.やシスターマーチが開催された全米と世界各地を行進しました。中には、黒肺塵症を患った末に肺がんで亡くなった石炭採掘場の炭鉱夫を祖父に持つ女性や、気候変動対策を怠っているとしてトランプ政権訴えている子どもたちの姿もありました。
気候マーチの1週間前には、トランプ政権による科学者軽視と弾圧に抗議するサイエンスマーチも開催されるなど、トランプ政権に対する市民の反発は顕著です。
2014年にニューヨークではじまった気候マーチは、時を経て連邦政府による気候変動政策の変遷と共に意味合いも変化しましたが、今回の抗議デモをトランプ政権に対する一度きりのイベントで終わらせるのではなく、大きなうねりを作るために、参加者やメディアを通じてデモの情報を得た人々がそれぞれのコミュニティに戻って、草の根レベルから気候変動対策の重要性や解決策を議論し、小さな町から市、州、そして連邦と各レベルの議会に気候変動問題を重要視するリーダーを送り込むための土壌作りを続けていかなければなりません。
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