米先住民スタンディングロック・スー族に対する環境正義問題と先住民の自治権や基本的人権の問題に発展している、ノースダコタ州からイリノイ州を結ぶ総額38億ドル(約3900億円)にのぼるダコタ・アクセス・パイプライン建設プロジェクトは、スタンディングロック・スー族の居留区近くで先住民グループによる抗議活動が実を結び、オバマ前大統領が居留区近くにあるオアへ湖の地下でミズーリ川を通過するルートでの建設を却下しました。
しかし、政権が移行するとすぐに、トランプ大統領はオバマ前大統領の判断を覆す大統領令を出し、それに基づいて陸軍工兵隊が従来のルートによる建設を認可したため、事業主体の「エナジー・トランスファー・パートナーズ社」はオアへ湖下のパイプライン建設工事を続行し、4月に完成した後、油送試験を経て6月1日に操業が開始されました。
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トランプ政権によるパイプライン建設認可後も、先住民グループは建設停止を求めて提訴を繰り返してきましたが、ワシントンD.C.連邦裁判所のジェームズ・ボアズバーグ判事によって訴えは退けられました。
しかし、6月14日、そのボアズバーグ判事が、スタンディングロック・スー族など先住民グループの訴えの一部を認め、大統領令に基づいた米陸軍工兵隊によるオアへ湖下のパイプライン建設認可は国家環境政策法の基準を満たしていないため、違法であると判断しました。
先住民側は、オアへ湖を通過するルートがオバマ大統領によって却下され、ルートを変更して建設を続行する場合には、居留区に悪影響を与えないようにスタンディングロック・スー族の意見を政府対政府の立場として取り入れ、また、一般市民の意見を反映させた環境影響評価報告書(EIS)を作成するために広く市民の意見を募集していたにもかかわらず、大統領令に基づく建設認可によってそれらの手続きが反故にされたことは国家環境政策法に反するとして提訴していました。
先住民側によるこれまでの提訴では、パイプライン建設が先住民の歴史的な聖地に影響を与えることも、宗教的な儀式や文化を損ねる危険性もないと判断してきたボアズバーグ判事が、今回は先住民のいくつかの主張を認めました。
91ページに及ぶ判断の中で判事は、米陸軍工兵隊によるパイプラインの環境への影響評価が十分ではないという先住民側の主張を認め、「米陸軍工兵隊は多くの部分において概ね国家環境政策法に沿ってはいるが、米陸軍工兵隊の判断は原油漏出が先住民の漁業権、狩猟権、環境正義問題に与える影響を十分に考慮しておらず、パイプラインが与える影響について議論の余地が大いにあることを裁判所は認める。」としています。
ボアズバーグ判事は、これらの違反部分について、工兵隊に対して再分析と改善を求めたうえで、再評価が終わるまでの間、一時的にパイプラインの操業を停止させる必要があるかどうかを判断するために、6月21日に先住民グループとエナジートランスファー社の双方と「ステータス・カンファレンス」と呼ばれる、裁判前に行う状況確認のミーティングが行われる予定です。
今回の判断に対し、スタンディングロック・スー族のデーブ・アーチャンボルト2世チェアマンは声明の中で「これは先住民にとって大きな勝利です。わたしたちは、裁判所による法に則った判断と正しい行いを称えます。前政権はパイプラインの影響を慎重に考慮しましたが、トランプ大統領は政治的そして個人的利益のために、前政権の環境に対する熟慮を性急に拒絶しました。わたしたちは、裁判所が不適切な政治的影響からわたしたちの法と規制を守ってくれたことを称賛するとともに、パイプラインの即時停止の判断を求めます。」と述べています。
スタンディングロック・スー族の法的手続きを行っているアースジャスティスの弁護士であるジャン・ハッセルマン氏は、今回の判断について「この判断は重要な転機です。これまではスタンディングロック・スー族の人権がダコタ・アクセス・パイプラインの建設事業者とトランプ政権によって無視され、世界的な抗議に発展してきました。連邦裁判所は、現在の政治機能において先住民コミュニティーの人権を守ることができない欠陥部分に足を踏み入れたのです。」と話しています。
ダコタ・アクセス・パイプライン建設問題について、政権側はエネルギー安全保障や経済の問題であると主張していますが、環境弱者である人種的マイノリティに対する環境正義問題であり、気候変動の影響が弱者に不公正に偏る気候正義問題でもあり、本来は米連邦政府と対等の関係にあるはずの先住民にとって、自治権と基本的人権がかかった問題でもあります。そして、スタンディングロック・スー族だけの問題でも、ダコタ・アクセス・パイプラインだけの問題でもありません。
トランプ大統領は、ダコタ・アクセス・パイプラインの建設認可を促す大統領令で、同じくオバマ大統領が建設を却下したキーストーンXLパイプラインの建設も進めるように命じています。ダコタ・アクセス・パイプライン問題の結果は、キーストーンXLパイプラインをはじめとする他のパイプライン建設、そして建設ルート周辺に住む人々にも影響を与えることになります。その影響を最も受けるのは、スタンディングロック・スー族のような先住民や、黒人やヒスパニックなどのマイノリティです。
6月21日に開かれるステータス・カンファレンスの行方に注目が集まります。
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