南極の棚氷などの動向を調査しているイギリスの研究チーム「Project MIDAS」が6月28日に更新したブログによると、数年前から亀裂が発生している南極半島のラーセンC棚氷の最も海側に位置する氷のずれる速度が、6月末になって急激に増したことがわかりました。
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(左)点線左側は、6月6日から12日にかけての内陸側の棚氷がずれた速度。右側は3日から15日にかけて海側の棚氷がずれた速度。(右)同じく点線左側が6月18日から24日にかけての内陸側の棚氷がずれた速度。右側は21日から27日にかけて海側の棚氷がずれた速度。Source: Project MIDAS
研究チームのブログによると、6月初旬には棚氷の海に近い部分がずれる(海側に移動する)速度は1日あたり約3メートルだったのが、24日から27日にかけては1日あたり約10メートルまで加速しています。
これはこれまでで最も速く、デラウエア州の面積(日本では群馬県や栃木県とほぼ同じ)に匹敵する巨大氷河の分離に向けてカウントダウンが始まったと言えます。研究チームは、いつ分離が起こるのかはわからないとしながらも、5月末の観測時と比較して著しい変化であると述べています。
(上)ラーセンC棚氷の位置と亀裂の場所。(下)ラーセンC棚氷の亀裂の位置。Source: NASA Earth Observatory
上の画像は、ラーセンC棚氷の位置と、6月28日時点における亀裂の最先端の位置を表しています。解像度が低いため、実際にどこまで亀裂が伸びているのかは確認できませんが、5月末時点で海まであと約13kmまで迫っていた亀裂がまだ海まで達していないことは確認できます。
もしもこの亀裂から海側の棚氷が分離すれば、ラーセンC棚氷全体の10%が失われることになり、その面積は2002年に分離したラーセンB棚氷に次ぐ大きさとなります。
なお、棚氷はすでに陸地から海上にせり出しているため、分離が起こったとしても海面上昇につながることはありません。しかし、最先端の氷を失うことで、押し出される形で新たに海上にせり出す氷床部分は海面上昇の原因になります。
今回の現象と気候変動の相関関係は不明です。しかし、最近の研究では気温上昇と海水温の上昇によって氷床が海に向かって前進する速度と、海上で棚氷が融解する速度が増すと予測されているため、ラーセンC棚氷だけでなく、南極における氷床と棚氷の今後の動向が気になります。
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