気候変動による海面上昇の問題は、このブログでも何度か取りあげてきました。グリーンランドの氷床が全部とけて海に流入すれば約7メートル、西南極の氷床融解は約3メートルの海面上昇につながるといわれており、気候変動問題で度々話題にのぼる南太平洋やインド洋の海抜が低い島しょ国だけでなく、世界中すべての沿岸地域が深刻な影響を受けることになります。
【関連記事】
今週のはじめに中国、オーストラリア、アメリカの研究チームが科学誌「ネイチャー・クライメートチェンジ」に発表した研究結果(Chen et al. 2017)によると、1990年代以降の約20年間で、海面上昇のペースが加速していることがわかりました。
研究チームは、1993年から2014年の間における衛星のデータを再分析して海面上昇のペースを割り出すとともに、海洋の熱膨張、陸地の貯水量の変化、グリーンランドや南極の氷床や氷河などからの氷の消失など要因の分析を行いました。
1993年から2014年にかけての海面上昇(単位: mm)と、その要因の内訳(上からグリーンランドの氷床融解、南極の氷床融解、陸域貯水量の変化、氷河、海洋の熱膨張)。Source: Chen et al. 2017
その結果、1993年に約2.2ミリメートルだった世界平均海面上昇が、2014年には約3.3ミリメートルと約50%加速していることがわかりました。また、1993年当時には要因の約50%を占めていた熱膨張が2014年には約30%まで縮小し、氷の消失による海面上昇が約70%を占めるようになっています。その中でも、グリーンランドの氷床の同期間における寄与分が、約5%から25%まで大きく上昇しており、グリーンランドの氷床融解が急速に進んでいることを表しています。
90年代前半には、地球の余剰熱の90%以上を蓄積する海洋が膨張することによって海面は上昇していましたが、氷床融解による淡水の流入も加わったことが、海面上昇のペースが加速した要因になったと考えられます。
これより以前に発表された研究結果でも、海面上昇のペースの加速が認められています。昨年2月には、20世紀の海面上昇ペースが過去2,800年で最速だったという研究結果が発表されました。また、今年5月には、1990年以前には約1.1ミリメートルだった年平均海面上昇が、1993年から2012年にかけての10年間でほぼ3倍の約3.1ミリメートルに加速したという研究結果(Dangendorf et al. 2017)も発表されています。
ほんの数センチメートルの海面上昇でも、台風やハリケーンなどの暴風雨と高潮が重なれば、沿岸地域が受ける被害は、海面が上昇する以前よりも大きくなります。そして、その被害を最も受けるのは、逃げ場のない環境弱者です。
今後は、海抜の低い島しょ国などの後発開発途上国だけでなく、先進国でもアメリカのフロリダ州マイアミやルイジアナ州ニューオーリーンズ(ルイジアナ州の先住民コミュニティは海面上昇が原因で気候難民としての移住を進めています)、日本でも人口が集中する東京や大阪などの沿岸地域は、海面上昇に対する適応策を急ぐ必要に迫られることになるでしょう。
【あわせて読んでほしい記事】
【参照文献】
Chen, X., Zhang, X., Church, J. A., Watson, C. S., King, M. A., Monselesan, D., Legresy, B., Harig, C. (2017). The increasing rate of global mean sea-level rise during 1993-2014. Nature Clim. Change, advance on(7), 492–495. http://doi.org/10.1038/nclimate3325
Dangendorf, S., Marcos, M., Wöppelmann, G., Conrad, C. P., Frederikse, T., & Riva, R. (2017). Reassessment of 20th century global mean sea level rise. Proceedings of the National Academy of Sciences, 201616007. http://doi.org/10.1073/pnas.1616007114
【参考記事】
Sea level rise isn't just happening, it's getting faster|Washington Post
この記事へのコメント