昨年に続いて人権保護団体「グローバルウィットネス」が発表した報告書によると、2016年に世界で殺害された環境保護活動家は過去最高の200人にのぼりました。116人だった2014年から2015年には185人まで60%増加し、さらに昨年は15人増加しました。なお、今年は5月までに98人の環境保護活動家が殺害されています。
Source: Global Witness
2016年に殺害された環境保護活動家は24か国で200人を数えました。最も環境保護活動家が殺害された国はブラジルで49人にのぼり、次いでコロンビアの37人、フィリピンが28人で続いています。
殺害された原因で多かったのは、石炭や鉱石などの採掘への反対で33人。森林伐採と農業関連開発に反対して殺された保護活動家が並んでその次に多く、それぞれ23人でした。密猟を防ぐために殺された活動家は18人、そしてダムなどの水資源開発に反対して殺害された活動家は7人を数えました。
警察や軍が何らかの形で関わって殺害されたと考えられる保護活動家は43人、企業や政府が雇った警備員や暗殺者によって殺害された活動家は52人にのぼっています。
また、殺害された活動家200人のうち約40%は先住民でした。なお、グローバルウィットネスは、これら200人は一部でしかなく、実際にはもっと多くの活動家や地域住民が殺害されているはずだと述べています。
2014年以降に殺害された環境保護活動家の推移。Source: Guardian
そして、今年5月までに殺された活動家は98人のぼり、昨年のペースを上回っています。
これらの開発途上国で石炭などの炭鉱採掘やダム開発、森林伐採などに反対しているほとんどの人が、各国の中では過疎地の住民や貧困層、先住民族などの環境弱者であり、開発事業の開始前に国際法で保証されているはずの十分な説明を受けておらず、経済と企業利益を優先させるために、国家と企業ぐるみで人権を蔑ろにされている現状が浮き彫りとなっています。
グローバルウィットネスは、活動家の殺害は起こらなかったものの、先進国における企業による住民を無視した開発事業の例として、アメリカのスタンディングロック・スー族によるダコタ・アクセス・パイプライン建設反対運動を挙げています。
報告書では、このような保護活動家の殺害を防ぐためには、国際社会が政府、企業、そして投資家に対して透明性の確保と説明責任の徹底を求め、事業を進めるにあたっては影響を受ける住民に対して十分な説明を行い、住民が反対活動を行う権利を尊重し、住民の意見を集約して計画に反映させる必要があると述べています。
報告書では言及されていませんが、キーストーンXLパイプラインやダコタ・アクセス・パイプライン、インドネシアやマレーシアのパーム油生産などに代表される近年の環境正義問題では、事業に投融資を行っている金融機関の責任を追及して資金の引き上げを求める「ダイベスト運動」が盛んになるなど、環境弱者に対する政府や企業による差別や弾圧などの行為を防ぐために、資金の流れを断つのは有効手段であると考えられています。
あと、昨年の同団体による報告書に関する記事で述べましたが、採掘された化石燃料や鉱物、森林伐採によって生産される製品や、伐採後に生産した飼料を供給された家畜による食品や飲料品、パーム油を使用した製品などの多くは、最終的にわたしたち末端の消費者の手元に届きます。利益を最優先させる企業の大半は、厳しい監視の目を行き届かせない限り、製品の原材料調達から生産、流通過程の人権侵害や環境破壊をなくすための最大限の努力を怠る傾向があります。
わたしたち消費者が企業に対し、サプライチェーンにおけるこれらの問題に関して透明性の確保と説明責任を求めていけば、開発途上国で起こっている環境保護活動家やジャーナリストの殺害を減らすことができます。
遠い国の知らない人々に起こっている出来事ではありません。わたしたちも無関係ではいられないのです。
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【参考記事】
Defenders of the earth|Global Witness
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