相次ぐ「死の熱波」に関する研究結果が描く未来

  近年、気候変動による気温上昇が要因の一部とされる極端な気象現象の増加や、その規模の深刻化が世界中で懸念されるようになってきました。

  極端な気象現象の中で最も気候変動との関連性が明確とされるのが、寒波と熱波です。どちらも気温以外の複雑な条件が少ないため、温暖化が進めば夏には熱波が、冬には寒波がともに極端化しやすくなると言われています。

  今夏も、米南部や西部(北西部)、ヨーロッパなど北半球の各地で熱波が猛威を振るい、山火事などの被害をもたらしています。

  では、気候変動によって気温上昇が続けば、熱波の増加と激化、夏の気温の著しい上昇は避けられないのでしょうか?

  ここ数か月で発表されたふたつの研究結果から、未来の世界を垣間見ることができます。

● 2100年までに命に関わる熱波に見舞われる人口が世界の74%まで増加という研究結果(Mora et al. 2017
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青い点は熱波が観測された地域。赤い点は死者を出した熱波が観測された地域。Source: Mora et al. 2017

  科学誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ」に発表された研究結果によると、温室効果ガス排出量の削減を怠った場合、2100年には命の危険を伴う熱波を年間20日以上経験する人の割合が、世界総人口の74%まで増加するそうです。
  研究チームが過去の熱波の気温と湿度を分析したところ、すでに世界の30%の人たちが年間20日以上熱波の中で生活しており、温室効果ガスを最も削減するシナリオにおいても、2100年までに48%の人たちが同様の条件に身を置くことになると結論づけています。

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日平均相対湿度と日平均気温の組み合わせを基準にした熱波の分類。六角形は死者が出なかった熱波。+は死者を出した熱波。青い線上の気温と湿度の組み合わせが概ね死者が出るボーダーライン。赤い線より右側にある+印は、100%死者が出る熱波。

  上のグラフから、死者が出るかどうかは、気温と湿度の組み合わせによって分かれることがわかります。気温が低くても湿度が高ければ汗をかくことによって熱を放出できないために死につながりますが、気温が高くても湿度が低ければ熱を放出できるため、命への危険度は低くなります。

  温暖化が進み、気温と湿度が上昇する地域では、命に関わる死の熱波に襲われる可能性が高くなります。

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IPCCの最悪のシナリオ(RCP8.5)に沿った、2090年から2100年までに死の熱波に見舞われる日数。

  上の地図は、今後気候変動対策を一切行わない場合、2090年から2100年までに1年あたり何日間死の熱波を経験することになるかを表しています。アメリカや日本、オーストラリアなどの先進諸国も含まれていますが、ほとんどが開発途上国です。

  気候変動の原因となる温室効果ガスを最も排出してきた国の人々は熱波によって命を落とす可能性が低く、温暖化に寄与していない人々が熱波によって命が危険にさらされてしまうという、気候正義の問題でもあります。

● 2100年までに南アジアの一部地域が生存不可能な暑さになるという研究結果(Im et al. 2017

  香港科技大学やマサチューセッツ工科大学などの研究チームは、人口が世界の約5分の1を占めるインドやパキスタンなどの南アジアにおいて、2100年までに人間が生存できないレベルの酷暑が猛威を振るう恐れがあるという研究結果を科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に発表しました。

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1979年から2015年までの南アジアにおける湿球温度の分布地図。Source: Im et al. 2017

  気温と湿度の組み合わせによって決まる「湿球温度」が35℃を超えると、人間は生存できないと考えられていますが、1979年から2015年までの期間に南アジアにおいてその条件を超える地域はありませんでした。

  しかし、研究チームが最悪のシナリオ(RCP8.5)に沿って分析したところ、今世紀末(2071年から2100年)までに、南アジアの人口のうち30%が生存不可能なレベルの湿球温度を経験することになるという結果が出ました。

  ただし、気候変動による今世紀末までの気温上昇を2℃未満に抑えることができれば、湿球温度が35℃を超える地域はありません。

  研究者らは、研究結果が気候変動政策の議論を活発化させることを望んでいると述べています。

  先ほどの研究結果でも述べましたが、生存不可能なレベルの暑さの影響を最も受けるのは、ホームレスや電力が普及していない地域の人々、そして十分な所得を得られないために冷房設備を持つことができない環境弱者です。

  気候変動に最も寄与していない人々が不公正な負の影響を受けるのを防ぐために、歴史的に大量の温室効果ガスを排出することで利益を享受し、開発途上国に負担を強いてきた先進諸国が、これらの研究で影響を受けると指摘された国々を経済的・技術的に援助するなど、国際社会が協力して気候変動の緩和策を講じる必要があります。

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【参照文献】
Mora, C., Dousset, B., Caldwell, I. R., Powell, F. E., Geronimo, R. C., Bielecki, C. R., … Trauernicht, C. 9. (2017). Global risk of deadly heat. Nature Climate Change, 7(June), 1–7. http://doi.org/10.1038/nclimate3322
Im, E.-S., Pal, J. S., & Eltahir, E. A. B. (2017). Deadly heat waves projected in the densely populated agricultural regions of South Asia. Science Advances, 3(8), e1603322. http://doi.org/10.1126/sciadv.1603322

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