【独り言】「パリ協定」発効決定によせて  長い目で見る自分と目の前の人たちを見る自分


  既報の通り、今日(2016年10月5日)「パリ協定」が55/55(55か国以上の批准国と55%以上の温室効果ガス排出量)の条件をクリアし、30日後(11月4日)に自動的に発効することが決まりました。

  今年中の発効が疑問視されていたことや、本来なら数年先までに効力を持つようになればそれでよかったことを考えると、11月7日からモロッコのマラケシュで始まる「国連気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)」の前に協定が発効するのは、喜ぶべきサプライズです。

  世界各地で相次ぐ異常気象による被害の大きさや、今後さらに気象現象が極端になり、未来の世代にそのツケを回すことなどを常に意識している気候変動の科学や倫理・公正の問題を専門とする者にとって、今日のような「小さな希望」が作るモメンタムはとても貴重です。

  そして、これからこのようなモメンタムを積み重ねて、少しでも気候変動の脅威を和らげることが、地球環境をここまで変えてしまった僕たちの世代に課せられた義務だと思います。

  パリ協定で掲げた目標を各国が達成するのは、そんなに難しいことではないはずです。気候変動問題を最優先事項に据えて、本気で取り組みさえすれば。

  でも、何よりも経済を中心にしてしまう資本主義の仕組みの中において、それは最も困難な作業になります。それは、パリ協定合意後にも世界各地で途切れることなく続く化石燃料の採掘やパイプラインの新規建設、石炭火力発電所が建設ラッシュであることを見れば明らかです。

  化石燃料から再生可能エネルギーなどの新しいエネルギーへの移行には時間がかかると指導者たちは口をそろえます。パリ協定も、今後数十年かけて世界的にゆっくりと脱化石燃料を実現させていくことが前提となっています。これからも石油産業を中心に脱化石燃料への抵抗は続くでしょうし、アメリカでは化石燃料産業から献金などの資金提供を受けている政治家が議会の過半数を占めているため、政治的な手続きに時間がかかるはずです。

  それでも、時間がかかっても変わっていくと思います。そして、今世紀末や来世紀の人たちが振り返ったときに、パリ協定の発効が人類にとって歴史的な、停滞していた気候変動対策の流れを大きく変えるきっかけになった出来事として語られるかもしれません。

  パリ協定の発効が決定したことを長い目で見る自分はこんな風に考えます。

  「これは嫌というほど見聞きする失望や絶望の中に生まれた小さいけど確かな希望の光なんだ」と。

  でも、今すぐに救済が必要な人たちにとっては、パリ協定では全然足りないんです。

  今年、気候変動の影響が見られる洪水の被害を受けたパリやルイジアナの人たちにとっては、パリ協定はすでに手遅れの遺物でしかありません。ゆっくりと変わっていく間にさらに激化し、頻度を増す極端な気象現象の被害を受ける人たちや、海面上昇によって移住を余儀なくされる人たち、移住をしなければならないのに政府から援助を得られずに立ち往生する人たちを、パリ協定が救済することはできません。

  これから数十年の間、化石燃料を使用することによって大気汚染で亡くなる人たち(年間数百万人)や、パイプライン建設によって空気や水を汚され、聖地を奪われる先住民を、健康被害が問題となっている石炭採掘現場やフラッキングが行われている現場、石油精製施設の周辺住民を、パリ協定は守ることができません。

  気候変動は、遠くにあるゴールへゆっくりと辿り着けばいい問題ではありません。
  すぐそこにあるゴールへ全速力で飛び込めばいい問題でもありません。

  遠くにあるゴールまで、全力で駆け抜けなければならない問題なのです。今のペースでは、限られた時間内で中継点に辿り着くこともできないでしょう。

  パリ協定の発効が決定したことは、小さな希望です。

  でも、そのためにこれからもどこかでだれかに大きな失望や絶望を背負わせてしまうことを忘れてはいけないんです。

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