TPPの環境関連の項目に批判続出

  10月に、環太平洋パートナーシップ(TPP)に参加12ヶ国が大筋合意に達し(どう考えてもまだ何も決まっておらず、「合意することに大筋で合意に達した」としか思えませんが)、ニュージーランドに続いて英語版の全文を米政府もオンラインに公開しました。

  全文の日本語訳はまだ公開されておらず、英語が読めない人は外務省が公開している概要を読んで「なんじゃこりゃ。なんもわからんやないか。」と思うしかない状況です。

  全文公開後、アメリカの環境保護団体や活動家からは、TPPの環境についての章に対する批判が相次いでいます。批判を簡単にまとめると、「こんなんで環境破壊や魚の乱獲、野生動物の違法取引を止められるか。ふざけんな。」というものです。批判というより、ボロカスです。

  「国際貿易の取り決めの歴史上、最も厳しいものになる」と謳っていた環境の章の条文がどのようなことを伝えようとしているのかというと、「各国がそれぞれ法令に基づいて野生動物の違法取引や魚の乱獲をしないように、最大限努力すること。」と、まったく規制や罰則のない、みんなでがんばりましょう状態です。

  当初はTPPへの賛意を表明していた米環境保護団体「Defenders of Wildlife」のCEOのジェイミー・ラパポート・クラーク氏は、「環境の章は弱く、密猟の禁止、野生動物の保護、野生動物の違法取引を防ぐために必要な条件や厳しい罰則を規定することができていません。」と、声明で条文の曖昧さを批判しています。

  同じく環境保護団体「シエラ・クラブ」のCEO、マイケル・ブルーン氏は、「TPPは私たちの家族やコミュニティ、そして環境にとって脅威だ。」と声明を発表しています。

  フレンズ・オブ・アースの通商政策分析担当のビル・ウォーレン氏は、「重要なのは、投資の条項です。合意文書では、もしも事業を行おうとする地域が存在するTPP参加国の法律が自社の利益を侵害すると判断した場合、企業側がその国を訴えることができます。」と話しています。

  実際に、TPPのモデルになったといわれている北米自由貿易協定(NAFTA)では、2013年にアメリカの石油・ガス企業が、水質汚染の可能性があるとしてフラッキングを認可しなかったとして、カナダ政府を訴えています。他にも、米のゴミ廃棄場管理企業が、有害物質の廃棄場建設を却下したメキシコ政府を告訴し、15.6億ドル(約19億円)の損害賠償を払わせた例もあります。

  また、TPPの環境の条項には、21世紀で最も脅威的な環境問題である「気候変動(climate change)」 または「地球温暖化( global warming)」という言葉が一度も出てきません。しかしながら、先ほどの投資の条文を盾に、二酸化炭素の排出量などで厳しい政策をとる国を相手取って、大手石油系多国籍企業が訴えを起こす可能性もあり、気候変動対策の妨げになることが懸念されています。

  もしもNAFTAと同様の問題が起これば、石油や天然ガスの採掘、有害物質による公害が健康問題に繋がる恐れがありますが、地元自治体や当該国の政府よりも企業の利益を優先する現在の条項では、公害問題が起こる可能性が高くても、訴訟による多額の損害賠償を恐れる政府が事業を却下できず、その地域の住民にとって深刻な環境正義問題に発展する可能性があります。

  環境とその関連箇所だけを見ても、TPPはこの新自由主義社会において、圧倒的に「多国籍大企業フレンドリー」な取り決めであるといえます。

【2016年1月8日追記】
2017年1月7日に日本政府がTPP条文の暫定日本語訳を公開しました。環境は第20章です。

【参照】
TPP Full Text|U.S. Trade Representative

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