2015年の歴史的な「パリ協定」合意から3ヶ月が経ち、パリで得たモメンタムが失速していく中で、アメリカとカナダが米ホワイトハウスで行われた会談の後、気候変動対策で共同声明を発表しました。強力な温室効果ガスであるメタンの排出量削減や、飛行機による温室効果ガス排出量の削減などを盛り込み、G-20やG-7参加国にも積極的な気候変動対策を講じるように促すなど、両国の強い意欲が現れた内容となっています。
主な声明の内容は以下の通りです。
・メタンガス排出規制
メタンは、空気中の割合が小さく、大気中に存在する時間も約12年と短いものの、二酸化炭素の25倍以上、最大で約80倍の温室効果を持っており、気温上昇への寄与が懸念されてきました。下火になってきたとはいえ、アメリカではまだシェールブームが続いており、採掘時や貯蔵タンク、ガス井の筒で燃やされる炎、パイプラインなどから排出されるメタンは無視できる量ではありません。カナダはアルバータ州で大規模なサンドオイルの採掘を行っており、環境破壊や健康被害と共にメタンの大量排出も懸念材料とされてきました。メタンの排出量を削減するため、アメリカは環境保護庁(EPA)が3月10日に規制案を発表し、即時に計画の実施に移り、カナダも2017年には規制案を完成させる予定です。
アメリカとカナダは、2025年までにメタンの排出量を2012年の水準よりも40%から45%削減することで合意しています。
・飛行機による温室効果ガス排出量の削減
昨年のパリ会議開催前から、環境保護団体等から「なぜ飛行機からの温室効果ガス排出を議題として取り上げないのか?」という批判の声が上がるなど、長い間問題とされながら先送りにされてきた飛行機による温室効果ガスの大量排出の対策にようやく取り組むことになりました。航空産業による温室効果ガス排出量は今後も増え続け、2050年には2010年の4倍以上になると予想されており、国際民間航空機関と協力して積極的に対策作りに取り組むとしています。
・クリーンなエネルギーとテクノロジーの開発
パリ会議で発表された、アメリカとカナダも(日本も)名を連ねている官民共同のクリーンエネルギー研究開発プロジェクト「ミッション・イノベーション」を実行に移し、クリーンエネルギーや新たなテクノロジーの研究開発によって、メタンの排出量削減、電力網の改良、電力自動車の開発と統合、非在来型石油・ガス資源の使用、二酸化炭素回収・貯留技術、最先端技術の発明などに積極的に取り組むとしています。
・トラックなど大型車両が排出する温室効果ガスの削減
両国だけでなく、G-20参加国にもトラックなど大型自動車の燃費向上、温室効果ガス排出量の削減、大気汚染物質排出量の削減、低硫黄燃料の使用などを法令で義務づけるよう促しています。
・代替フロンガスの削減
両国とも政府が購入する製品を、強力な温室効果ガスである代替フロンガス以外の物質を使用するものへと積極的に移行させていくなど、新たな対策案を2016年中に完成させるとしています。
・北極圏の資源保護
北極海の海氷の融解が進み、開放水域が増えたことによって、北極海での水産物の乱獲や石油・ガスの乱開発が行われないよう、北極海に接する国々と科学的見地に基づいた国際ルールの作成に務めるとしています。
・北極圏の先住民の保護
北極圏の温暖化による海氷の減少や海岸線の浸食、永久凍土の融解などによって、北極圏で暮らす先住民たちの生活基盤が脅かされています。中には、気候難民として移住を余儀なくされている先住民のコミュニティもすでにあるくらいです。両国は、先住民と協力して、彼ら伝統や文化、人権を尊重する形でコミュニティが気候変動に適応できるように対策に取り組み、それらの対策作りには先住民の伝統的な知識や先住民独自の科学を活かすとしています。
両首脳の共同声明の内容を環境保護団体は概ね歓迎していますが、アメリカはEPAによるメタンガス排出量削減策の完成・実施がオバマ政権から次の政権へ移行してからになることが確実なため、声明通りに実行できるかどうかに注目が集まっています。
【参照】
U.S.-CANADA Joint Statement on Climate, Energy, and Arctic Leadership|Prime Minister of Canada Justin Trudeau
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