米エネルギー情報局の報告によると、2016年はアメリカにおける天然ガスの発電量が史上初めて石炭火力を上回ることになる見込みです。
1950年から2016年までのアメリカにおけるエネルギーごとの発電量の割合
2000年にはアメリカの総発電量の50%以上を担っていた石炭火力は、シェールブームによる天然ガスのコスト低下と近年の再生可能エネルギーの台頭によってそのシェアを下げ続け、2014年に39%あったシェアが現在は約30%まで落ち込んでいます。今後もこの傾向は変わらないと予想されており、2016年は長い歴史の中で石炭が初めて発電量トップの座を譲ることになると言われています。
これによって、気候変動の主要原因である二酸化炭素を最も排出するエネルギーのシェアがアメリカでは2番目になりましたが、天然ガスが石炭と比較して圧倒的に気候変動やその他の環境面で優れているのかというと、決してそうではありません。天然ガスは燃焼時の二酸化炭素排出量が石炭の約半分ではありますが、採掘時と燃焼時に二酸化炭素の約25倍、短期的には最大約80倍の温室効果があるメタンガスを排出します。アメリカとカナダの間でメタンガスの排出量削減の合意がなされましたが、今後もシェアの増加が見込まれているため、その短期的な温室効果による影響が懸念されています。
また、総発電量の60%以上を占めている石炭と天然ガスには、温室効果ガスによる気候変動への寄与だけではなく、それぞれが深刻な環境正義問題の原因となっていることも見逃してはいけません。石炭火力発電所は有色人種や低所得者層の多い地域に集中しており、大気中に排出される二酸化硫黄や窒素化合物、PM2.5等の公害物質が原因で、ぜんそくで入院する黒人は白人の約1.7倍、緊急治療室に運び込まれる黒人の子どもは白人の子どもより30%多く、ぜんそく発作で命を落とす黒人の子どもは白人の子どもの2倍にのぼります。
天然ガスは、フラッキングと呼ばれる採掘法による環境破壊や水質汚染、健康被害などが問題になっており、近年では地震の原因になっているという研究結果もあります。
短期的に見れば、温暖化への寄与がより大きな石炭火力の衰退と、二酸化炭素排出量が少ない天然ガスの台頭は、最悪を避けるという意味で良い傾向なのかもしれませんが、環境正義問題などを考慮に入れると、環境や健康に悪影響を与えない再生可能エネルギーへの迅速なシフトが、現状ではより良い選択であるのは間違いないでしょう。
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