アメリカは再生可能エネルギー中心で経済を回せるという研究結果  CO2排出量を最大78%削減可能

  近年の太陽光や太陽熱、風力発電などの再生可能エネルギー導入の伸びには目を見張る勢いがあります。アメリカでは、再生可能エネルギーの普及に伴って発電コストが下がり、他のエネルギーとの競争力も上がってきています。


  再生可能エネルギーの普及を妨げる最も大きな要因は、断続的な発電しかできないのと同時に、蓄電技術がまだ開発されていないことだと言われてきました。太陽光(熱)は、太陽が出ていない夜間に昼間並みの発電を行うのは不可能です。風力は風が吹かない場所にタービンを建設してもどうにもなりません。そして、双方とも遠くへエネルギーを運ぶことができず、今のところ蓄電バッテリーの技術は開発されていません。

  ところが、この「再生可能エネルギーはメインの電力供給源になれない」という定説は、政策次第でひっくり返すことができるかもしれません。

  米海洋大気局(NOAA)のチームが、ハイテクな高電圧送電ネットワークを米本土全域に構築すれば、化石燃料への依存度を大幅に減少させて再生可能エネルギー中心の電力供給が可能になり、2030年までにエネルギー分野からの二酸化炭素排出量を最大で78%減少させることができるという研究結果(MacDonald et al. 2016)を科学誌「ネイチャー」に発表しています。

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Credit: 元データは MacDonald et al., 2016。グラフはCarbon Brief

  研究チームは、気象ネットワークを利用して全米各地における気象条件などから最もコストが低くなる電力供給方法を分析したところ、太陽光、風力、天然ガス、原子力、水力などのエネルギーミックスによって1,529GWの発電施設を15年以内に建設すれば、人口増加を考慮に入れても現在の見通しよりも低いコストで電力需要を満たすと同時に、最大で78%の二酸化炭素排出量削減にも繋がると結論づけています。

  上のグラフにおける各電力供給源の数値内訳は、風力が523GW(34.2%)、太陽光が371GW(24.3%)、天然ガスが461GW(30.2%)、原子力が100GW(6.5%)、そして大規模水力が74GW(4.8%)となっており、再生可能エネルギー(風力と太陽光のみ。大規模水力は除く)だけで約58%を占め、天然ガス以外の化石燃料の新規導入はゼロと、これまでのエネルギー供給バランスからは大きく路線を変更することができます。

  この研究結果で画期的なのは、再生可能エネルギーによる電力を供給するために、研究開発が進められているもののまだ大規模な実用段階に至っていない蓄電バッテリーが不要であるところです。

  研究結果によると、米本土全域をカバーする大規模なネットワークを構築すれば、特定地域では不十分な日照時間しか得られない場合や、風力が電力需要に満たない場合でも、他地域の余剰電力の供給が可能になるそうです。米本土48州のどこかで日が射したり風が吹いたりしていれば、これまでは送電できなかった地域にも電力を供給することができるようになります。

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米本土の低コスト化を重視した電力供給システム。緑のドットは風力(陸上)。濃い青は洋上風力。赤は太陽光。水色は水力。紫は天然ガス。黒は原子力。灰色の実線は高電圧直流送電ネットワーク。Source: MacDonald et al., 2016

  ただし、蓄電バッテリーを用いることなく再生可能エネルギーによる電力を米本土各地に供給するためには、現在3つに分かれている送電ネットワークをひとつに集約し、全米に大規模な高電圧直流送電線を張り巡らせる必要があり(上図参照)、それが実現を妨げる原因になり得ると研究チームは指摘しています。

  また、これらの発電施設を建設するために必要な土地は6,570平方キロメートルと、米本土の0.07%にあたりますが、環境保護地域を開発することなくすべての施設の建設が可能としています。

  このシステムを導入すると、1年あたり約472億ドル(約4兆8千億円)のコスト削減が可能で、これを1kWhあたりに換算すると電気代が10セント(約10円)安くなり、2030年のアメリカの電気代は平均で1kWhあたり11.5セント(約11.5円)になるそうです。

  つまり、顧客にとっては今よりも電気代が安くなり(現在の石炭火力による電気代よりは高い)、国にとってはエネルギー分野の二酸化炭素排出量を最大で約80%削減することができる夢のような電力供給システムであると言えます。

  最大の障害は、米本土でひとつのグリッドを構築することだと思います。その中でも最大の障壁になるのは、連邦政府の言うことを聞くのが嫌というしょうもない理由で独自のグリッドを持っているテキサス州でしょう。

  このような研究結果は、アメリカに限らず世界各国が気候変動の影響を緩和させるためのエネルギー政策を作るうえで重要であり、脱化石燃料後の世界の可能性を感じさせてくれます。

  政策決定者には、できないと決めつけるのではなく、どうすればこのようなエネルギーミックスを実現できるかを探ってほしいものです。未来の世代の負担を少しでも軽くするために最大限の努力をするのは、私たちの義務なのですから。

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【参照文献】
MacDonald, A., Clack, C., Alexander, A., Dunbar, A., Wilczak, J. & Xie, Y. Future cost-competitive electricity systems and their impact on US CO2 emissions. Nat Clim Change 6, 526–531 (2016).

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