90社が温室効果ガスの約3分の2を排出しているという研究結果

   気候変動会議などで世界の温室効果ガス排出量について語られる際には、国別の排出量が対象となっています。たとえば、「2011年のアメリカの二酸化炭素排出量は世界全体の17%、中国は27%を占めた」といった表現をよく見聞きします。

  したがって、気候変動会議で温暖化の歴史的な責任を問う場合には、先進国対開発途上国のような図式となり、国家間で話し合いが続けられます。

  しかし、はたしてそれでよいのでしょうか?言い換えると、国だけが「人為的気候変動の責任を問う対象」であるべきなのでしょうか?

  その問いの答えに選択肢をひとつ加える研究結果が2014年に科学誌「Climatic Change」に発表されています。

  Climate Accountability Instituteのリチャード・ヒーディー氏によると、1751年から2010年までに世界で排出された温室効果ガスのうち、90社による排出量が63%を占めていました(Heede 2014)。

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1751年から2010年までの産業界による二酸化炭素とメタンの排出量。データは米二酸化炭素情報分析センター(二酸化炭素)とスターン&カウフマンおよびヨーロッパ共同体より。Source: Heede 2014

  上の表は、米二酸化炭素情報分析センター(CDIAC)とスターン&カウフマンおよび欧州委員会のデータを元に、1751年から2010年までに世界で排出された温室効果ガスと、ヒーディー氏が「カーボン・メジャー」と呼んでいる排出量が最も多い企業90社(国営も含む)による1854年から2010年までの排出量を比較したものです。

  石油と液化天然ガスは世界全体の77.5%、石炭は51.3%を占めるなど、世界中の企業による温室効果ガス排出量のほぼ3分の2に相当する63%を、たった90の企業が占めていたことになります。

  全排出量である914GtCO2e(二酸化炭素以外の温室効果ガスを二酸化炭素相当量に置き換えた場合にはGtCO2eと表現します。eは、"equivalent"の頭文字で「相当量」という意味です)の内訳は、シェブロン社やエクソンモービル社、BP社などの投資者所有企業50社によるものが315GtCO2e(34.4%)、サウジアラビアのサウジアラムコやロシアのガスプロムなどの国営企業31社によるものが288GtCO2e(31.5%)、そして中国や北朝鮮、旧ソビエトなど9か国による排出量は312GtCO2e(34.1%)でした。

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Credit: Science

  これは、ヒーディー氏の研究結果を元に、サイエンス誌が1885年以降の温室効果ガスの累積排出量とカーボン・メジャー90社の排出量を比較したグラフです。一番下は上位8社による排出量です(英文ですが、サイエンス誌の元記事にはヒーディー氏がこの研究に費やした時間や労力、情熱など、彼のパーソナルストーリーが書かれていて、なかなか読み応えがあります)。

  そして、これらの企業や国による排出量の半分は、二酸化炭素が地球の平均気温上昇の原因であり、その影響が深刻であろうことをエクソンモービル社などの石油・ガス企業も、アメリカなどの政府も知っていたはずだった1986年以降に記録されています。

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上位20社の温室効果ガス排出量と1751年から2010年の全排出量との比較。Source: Heede 2014

  また、90社のうち、シェブロン社、エクソンモービル社、サウジアラムコ、BP社、ガスプロム、ロイヤル・ダッチ・シェル社をはじめとする上位20社だけで全排出量の約30%を占めており、温室効果ガス排出量が一部の企業や国に極端に偏っていることがわかります。

  これまでに世界で排出された温室効果ガスの約3分の2をたった90社が、3分の1をたった20社が排出してきたにもかかわらず、その責任をとった企業はありません。すべて国単位としての排出量に集約され、気候変動による被害や、後発開発途上国への補償、気候変動緩和策や適応策に必要な費用は、税金などの形で国民が負担することになると思われます。

  公正・倫理の視点から考えた場合、これは正しい方法なのでしょうか?

  環境を汚染した場合、汚染した者に対して原状回復に必要な費用を負担する責任が生じるはずで、それを適用すれば、これまで大量に温室効果ガスを排出してきた企業にはなんらかの形でその代償を払う義務があると考えられます。しかし、それを法として適用するのは大変困難な作業(たとえば、特定の企業の温室効果ガスによってだれがどれくらいの被害を受けたのか、その被害の元になった極端な気象現象などの出来事にどれくらい温室効果ガスが寄与したのかを、科学的事実を用いて証明するのは難しいため)になると思います。

  また、温室効果ガスによる被害の責任の所在が話題になると、「みんなその恩恵を受けているのだから、全員に責任がある。企業だけに責任を押しつけるのはおかしい。」という話をする人が必ず出てきます。もしもたくさんの選択肢の中から自分が選べる状況ならば、その言い分は理にかなっているかもしれませんが、化石燃料以外の選択肢を持たない状態でそれを利用する場合には、消費者に責任を問うのはおかしな話です。しかも、特に化石燃料企業は国の協力を得て、温暖化の原因を作りながら気候変動対策を妨害し、大気汚染によって多くの人を病気にさせ年間数百万にもおよぶ人を早死にさせながら、世界で最も利益を生む産業として市場を独占しているのですから、責任がないわけがないんです。

  にもかかわらず、G20諸国は化石燃料業界に税控除や公共投融資などの形で年間4500億ドル(現レートで約47兆円)の優遇措置を与えています。このうち、日本は約2兆円を占めています。壊滅的な温暖化を避けるために2050年までにはフェードアウトする必要がある産業に対して優遇措置を与えるなど愚の骨頂です。

  9月4日と5日に中国で開催されたG20杭州サミットを前に、アメリカと中国がパリ協定を批准しました。今後、年末までの発効を目指して気候変動対策に取り組む動きが国際的に活発になると思われます。これを機に、世界で最大の利益を生みながら環境を破壊して地球を温暖化させ、人々が健康を害する原因を作ってきた企業や国に対してその責任を問い、代償を払う時がきたのだという強いメッセージを発信してもらいたいものです。

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【参照文献】
Heede R (2014) Tracing anthropogenic carbon dioxide and methane emissions to fossil fuel and cement producers, 1854–2010. Climatic Change 122:229–241. doi:10.1007/s10584-013-0986-y.

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