楽観的なシナリオを用いても、パリ協定の目標「2℃未満」を達成できる可能性は5%という研究結果

  これまでに、産業革命前から今世紀末までの気温上昇を2℃未満に抑える条件や、1.5℃未満に抑えるにはどうすればいいのか、産業革命前からこれまでに気温がどれくらい上昇しているのか、気候変動の原因となっている温室効果ガスの累積排出量が1.5℃と2℃上昇の壁を超えるのがいつなのか、今すぐに温室効果ガス排出量をゼロにすると気温はどれくらい上昇してしまうのかについて解説してきました。

  また、先日紹介した、20世紀半ばと比較して世界191か国の平均気温が著しく上昇していることがひと目でわかるアニメーショングラフを見ると、2015年に200か国近くが合意に達し、2016年に発効した「パリ協定」の目標である「2℃未満」達成が困難だということは想像に難くないと思います。

  さらに、昨年には米航空宇宙局(NASA)が、このままでは島しょ国などの後発開発途上国が強く主張してパリ協定の努力目標として採用された「1.5℃未満」を達成できる可能性は10%以下と予測しました。

  そして今回、そのNASAの予測ですら楽観的に感じるような研究結果が「ネイチャー・クライメート・チェンジ」に発表されました。

  ワシントン大学の研究チームが、2100年までの人口増加、一人あたりの国内総生産、二酸化炭素の排出係数を元に統計分析を行ったところ、世界平均気温は2100年までに2℃から4.9℃上昇(中央値は3.2℃)することがわかりました(Raftery et al. 2017)。

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2100年までに予測される世界平均気温上昇幅(基準年は1861年から1880年。単位は℃)。 Source: Raftery et al. 2017

  研究チームによると、パリ協定の目標である2℃未満を達成できる可能性は5%、努力目標である1.5℃未満については、わずか1%しか達成できる可能性がないという結論に至っています。

  さらに悪いニュースとして、通常、気候変動の予測には最悪のシナリオ(排出量削減を一切行わない場合)が用いられますが、今回のワシントン大学の研究チームは現行の排出量削減シナリオをモデルに組み入れて分析しているため(研究チームの分析によると、2100年までの累積温室効果ガス排出量は最悪のシナリオの83%に収る見込み)、2℃未満の目標達成には相当野心的な温室効果ガス排出量削減策が必要となります。

  共同執筆者のひとりであるエイドリアン・ラフテリー氏は、ワシントンポスト紙に対し「わたしたちは多くの不確かな要素と共に、楽観的なシナリオも分析に加味しましたが、2℃未満と1.5℃未満の目標は達成できそうにありません。」と述べています

  今回の結果について、研究に関わっていないテキサスA&M大学の気候科学者であるアンドリュー・デスラー氏は、分析結果が妥当であり、2℃未満と1.5℃未満達成の見込みがほとんどないことに同意したうえで、将来的に(ごく近い未来に)科学技術が劇的に進歩し、誰もが利用可能な温室効果ガスを排出しない発電方法が急速に普及する可能性が皆無ではないと指摘し、目標を達成するための重要な要素として再生可能エネルギーのコスト低下と炭素税導入などを挙げています。

  パリ協定の合意達成から発効までの流れの中で生まれた楽観的な空気は、トランプ政権によるパリ協定離脱表明や、オバマ政権時に行った気候変動対策の廃止によって停滞してしまったかのように見えますが、元々すべての国がパリ協定で掲げた自主的な努力目標をクリアしても、2℃未満の目標達成にはほど遠いため、国際社会はこのような研究結果を警鐘として、さらに野心的な気候変動対策に取り組む必要があります。

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【参照文献】
Raftery, A. E., Zimmer, A., Frierson, D. M. W., Startz, R., & Liu, P. (2017). Less than 2 °C warming by 2100 unlikely. Nature Climate Change, (July). http://doi.org/10.1038/nclimate3352

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